第9話:意思の静寂と憑依者の脈動(4/10)

 レンは、悪魔に対する理解を深めるため、ルナに向けて新たな質問を持ちかけた。「悪魔がなぜこんなにも人を乗っ取りたいと考えるのか、その理由は何だろう?」と。彼は、悪魔が召喚者の肉体を乗っ取る目的まではわかっていたが、その先の目的まではわからない。人以外にも良いと思われる生命体はいくらでもいそうだと考えていた。


 ルナは、レンの疑問に対し、異世界の悪魔について彼女の見解を明かした。「悪魔とは、まさに別次元の存在よ。異なる空間から来た異質な魔力を持つ者たちね。彼らは人が容易にその甘言に乗ってしまうことを利用し、目に見えない糸で人々を操るわ」


「待てよ? ということは、異なる次元の魔力とこの世界の魔力では何かが違っているんだよな。もしそうだとしたら悪魔からしたら、俺たちこことは異なる異界人の何も染まっていない体なら、自分たちの魔力に染めやすいから、狙われているのもあるのか?」とレンはこれまでのことを類推して言った。


「その線は鋭いね! 当時は考えもしなかったわ。今にしてみたら十分ありえる話しだし、むしろそれ狙いと言っても不思議じゃないね」とルナもレンの予測する内容に共感していた。



 レンはこれまで話を整理し、悪魔がどのような存在か、そしてその目的が何かについて考えを巡らせた。彼は、ルナが悪魔とどのようにして接触したのか、その経緯にも興味を抱いた。「悪魔との会話はどのような機会に行われたんだ?」


 ルナはその質問に応え、彼女が魔導書の作成に携わっていた時の出来事を語り始めた。「魔導書を作り始めた頃、実験室の空間が亀裂を生じて、そこから悪魔が現れたの。彼らは異空間から来たことを自ら明かしたわ」


 レンはルナの話に驚きながらも、悪魔と異種族との間に成立したギブアンドテイクの関係、共通の目標に向かう中での協力関係について理解を深めた。しかし、ルナが仲間に裏切られ、肉体から分離された経緯を聞き、悪魔との関係が一筋縄ではいかないものであることも悟った。


 この会話を通じて、レンは悪魔が単なる敵対者ではなく、複雑な存在であること、そしてその力を利用することの危険性と可能性を同時に理解することになる。


 ルナは、悪魔の世界とその力の秘密についてレンに更なる詳細を語り続けた。「異空間からこの世界へと繋がるためには想像を絶する魔力が必要だわ。その魔力は私たちの知るものとは根本から異なり、未知なる可能性を秘めているのよ」


 彼女は、村人たちが魔導書の力をある程度までは、制御下に置けると初めは考えていた。制御の可能性は、魔導書を設計した当初の意図に基づくものだったからだ。「生と死の支配権が魔導書の使用者にあれば、その力をコントロールできるはずだと思っていたの」


 しかし現実は予想と大きく異なり、完全な制御はほぼ不可能に近かった。「でもね、実際は全く異なるわ。体が自分の意志とは無関係に動くことが多いのが証拠ね」村人たちが自分たちの意志に反して動かされていることが多々あり、その実態にルナも戸惑いを隠せない。


 それでも村人たちは、魔法の力を使えることに喜びを感じていた。これまでの抑圧された生活の解放感から、魔法を際限なく使用してしまうのだ。「抑えられていた欲求が解放された瞬間、彼らはその力を制御できなくなってしまうわ」とルナは現状を指摘し、制御不能にまでなっている状況に憂でいた。

 

 しかし、この行動が本当に村人自身の意志によるものかというと、事実は異なっていた。表面上は村人たちの自由意志による行動のように見えても、実際は悪魔の誘導によるものだった。「悪魔の巧みな誘導によって、彼らは自分の選択だと思い込んでいる。だけど、実際には……」とレンは考察した。


 ルナは、自分が村人たちの心理を理解し、予測することができなかったことを認めた。「当時は、人々の心の動きを読むことの難しさを甘く見ていたわ」


 そして、最も悲劇的な事態に陥った村人たちの例をレンに話す。「自分の体が自分の意志に反して動かされることほど恐ろしい体験はないわ。意識はクリアなのに、体が自分の意志を受け付けない……そういった恐怖を多くの人が経験しているのね……」


 この深刻な状況について話し合う中で、レンとルナは、悪魔とその力に対する理解を深め、村人たちを助けるために何ができるのかを一緒に考え始める。

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