第9話:意思の静寂と憑依者の脈動(6/10)

 村人たちは、悪魔の誘導に惑わされていた。自分たちの行動が、悪魔の意のままになっていることを知りつつ防げなかった。なぜなら、強大な魔法の力の魅力に取り憑かれ、それを手放すことができなかった。力によって得られる富や名声、そしてかつて感じた抑圧からの解放感は、彼らにとってはあまりにも大きな誘惑だった。


 しかしレンは、山口の言葉から「力があれば……なんとかなる」という思い込みが、どれほど危険なものかを痛感した。力を得たことで生じる変化は、一時的なものであり、本当の意味での自由や幸福をもたらすものではない。


 悪魔の誘導によって引き起こされた事件は、レンにとって大きな衝撃となった。

 レンは、山口と他の村人たちが直面する苦悩を乗り越え、ルナと共に更なる行動を起こすことを決意する。


 レンは山口の事件を受けて魔導書への深刻な懸念を抱え、解決の糸口を探すべくルナへ聞くことにした。それは、想定外の事態への対応について、あらかじめ準備していたなら知りたいと願いに近い意味もある。


 「これは、想定していた範囲なのか?」という彼の問いに、ルナは真摯に答えた。「ええ、少しは想定していたわ。ただ、ここまで酷い惨状になるとは思っていなかったわ」と、ルナは魔導書の影響を巡る自身の見通しの甘さを認める。


 ルナの回答からは、魔導書製作時の楽観主義が垣間見え、「日常生活に少し影響が出る程度かと思っていたの。悪魔とのやり取りで過信していたことが、この誤算に繋がったのね」と彼女は述べた。このやりとりは、ルナが魔導書の使用者への影響を、考慮しきれていなかったことを示している。


 さらにレンが悪魔の具体的な行動について問い掛けると、ルナは彼らとの会話があったことを明かし、「悪魔との対話があった時、彼らはそれほどガツガツしていなかったの。だから大丈夫だろうと安心してしまったのよ」と、ルナは当時の安心感について語った。レンはルナからの説明を受け、悪魔が単一の存在ではなく、様々な意図を持った多様な存在であることを理解し、「悪魔も個体によっては人と同じように理性的な対話が可能だということか。つまり、良い者もいれば悪い者もいると」と、彼なりに納得する。


 ルナはレンの理解に感謝し、「ありがと、レン。私の配慮が、まだまだ足りなかったわ」と感謝の意を表す。



 レンは魔力を持たず、憑依召喚の魔導書の助けも借りていないが、彼には『深淵の瞳』と称される、特別な目の力を得ていた。これは、ルナを救出した際に偶然得た物だった。能力の全容はまだ謎に包まれており、レン自身もその力の正体を把握していない。ただ確かなことは、村人に憑依していた悪魔を、直接見ることができ、さらには会話することが可能だったという事実である。


 この異常事態に遭遇したときレンは、悪魔と称される者の姿を目の当たりにした。悪魔が村人の体から分離するかのように、死亡した村人の体から別の存在が現れる様子を目の当たりにしたのだ。この光景はレンにとって強い印象を残し、その力の可能性について深く考えさせられる出来事となった。しかし、この現象はレンにしか認識できず、ルナとクロウには感知されなかった。


 この経験から、レンは自身の力に隠されたさらなる可能性を探求しようと決意する。彼はこの力が、単に見えるだけではなく、何かを解決する鍵になるのではないかと考えた。


 ルナも、かつての魔導書の制作に関わった経験から、解決策を見つけるために可能性を探り続けている。レンが率直に助けを求めたときから、ルナは問題解決のために、頭を悩ませてきた。


 現状から脱する具体的な手段が見つからないことに、ルナは苦悩しながらも、レンに対して力強い言葉を投げかける。「努力はするわ。全てを尽くしても、できないことはある。でも、私は諦めないわ」と彼女は言う。


 レンも、ルナの言葉に励まされ、「そうだな。俺たちにできることは、何でもやってみよう」と応える。このやり取りは、二人の間の深い絆を示し、共に困難に立ち向かう決意を固める瞬間となる。


 レンはルナの提供する情報を基に、さらなる解決策を模索し続けることを誓う。そして、翔子と共に、彼らが直面する難題を乗り越えるための策を練るのであった。

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