第8話:階位の始まりと力との対話(10/10)

 レンは、倒した相手から魔力と魂力を吸収する謎めいた仕組みについて、ルナと話し合いながら村へと帰っていった。この吸収する現象は、すべての生物に備わっていると言う。その能力をどのように活用するかは、個々の力次第であることを彼は理解していた。特に、異世界からの転移者であるレンたちは、魔力を持たずとも魂力を吸収する特異な能力を有していた。


 こうして異世界人であるレンには、魔力を吸収し蓄積する魔力器官が欠如しているため、魔力が体を素通りしてしまうという独特の状態にあった。この特徴は、恐らくは異世界から直接この世界へ転移してきた者に共通するものだろう。この世界では魔力器官は生命維持に必須であり、最悪の場合、心臓さえも修復可能な万能な臓器とされていた。


 持たざる者が新たに魔力を生成するためには、魔力器官の移植しか手段がない。しかし、移植が成功する保証はなく、異物による拒絶反応や病死のリスクもある。個々の反応については個体差というしかなく、鮮度が移植成功のカギを握り、生きた提供者からの移植は成功率が格段に高い。

 奴隷や借金を抱えた者または重大な犯罪を犯した者が、負債や罪を帳消しにするために、移植を申し出ることもある。このこともあり、魔力がない者は、元奴隷か負債を大きく抱えた者または犯罪者であると見なされることがほとんどだ。ゆえに差別がまかり通っている。


 ルナが語るには、移植に際してのスライムの利用は、その傷の治りの速さと清潔さが何よりの魅力である。スライムというのは、小さくて伸縮自在のゼリー状の生物で、何でも食べる雑食性を持っている。この生物の体内コアが無事であれば、どれほど体を傷つけられても再生することができ、そのゼリー質は傷の治癒に非常に効果的で、医療の現場で使うには申し分ない。


 移植手術を行う際には、スライムを手際よく切り開き、手術を施したい部位へと人の体を導いて、その中で腹部を開いた後、提供者から取り出された臓器を置き、それを縫い合わせる。スライムの内部は人間の体液に近く、内部は常に清潔に保たれており、移植された心臓であろうとも、一定時間は正常に機能し続けることが可能だ。


 この特殊な手術法によって、スライムの中で臓器は自ずと結合し、腹部の縫合も非常に滑らかに進む。この手法は、何らかの理由で魔力器官を失った者が、侮蔑の視線から逃れ尊厳を守るための一つの手段となっている。過去には、魔獣の魔力器官を人間に移植する試みもあったが、その成果は今なお謎に包まれている。


 手術の過程では、普通の医療器具を用いてスライムを切り開き、そのゼリー状の中に患部を納め、臓器や手術器具とともに手を差し込み、通常通り手術を行うという。


 レンはルナの解説に心を奪われ、彼女の知識の深さに興味を持った。「ルナ、実際に手術現場を見たことがあるのか?」と、半信半疑のまま尋ねた。


 ルナの目は知識への渇望で輝き、「うん、本当に興味深いの。魔導書を編集作業している時に、その機会が訪れたんだ」と、彼女は子供のような興奮を隠せずに話した。彼女の言葉からは、この経験が彼女にとってどれほど貴重なものであったかが伝わってきた。


 レンは、自身も魔力器官を持たずに戦う中で、魔力と魂力が絡み合う複雑な相互作用によって、他の者とは一線を画す強靭な肉体を手に入れた。この突然の変貌は、日々の生活でさえも彼に細心の注意を強いる。力の調節が必要となり、どれほどの力で物を扱えばいいのか、常にその加減を探りながら、彼は転移者の村へと足を運んだ。

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