第8話:階位の始まりと力との対話(9/10)

 ルナが思慮深い表情で顎に手を当て、上を見上げながら言葉を紡ぎ出した。


「うーん、レンは自分でも道徳を軽んじていると感じるの?」


 レンは即座に首を横に振り、反論した。「いや、それについては違うかな。人を見捨てることが絶対的に悪だとは思わないけど、必ずしも道徳を無視しているわけではないさ」


「なるほどね。自分がそう思うなら問題ないわ。悪魔の言葉なんて、ただの戯言よ。気にしなくて大丈夫」とルナの返答は軽やかで、その話題に終止符を打った。彼女はレンの考え方を肯定し、悪魔の言葉を単なる戯言として片付ける。


 ルナの経験則から、悪魔は真実を語ることが少なく、彼らの言葉を真に受けることなく適当に流すことが賢明だという。妖精も悪魔も、それぞれが変身できる範囲には限りがあるが、人間は悪魔にもなれるし、その逆もまた真なることから、この差異は自然に生じるのかもしれない。


 ルナがかつて悪魔との対話を重ねた経験は、彼女にとって重要なものだった。悪魔から投げかけられる真偽不明の話を受け流すこと、これが彼女が学んだ対処法である。


 ルナは彼の言葉を優しく受け止め、「レンが今、こうして自分の行動について考え、反省すること自体が大事なのよ。人は完璧じゃないから、間違いから学ぶこともあるわ」と励ました。

 

 

 レンは村への帰途、自分の変化に思いを巡らせ、ルナに確認を求めた。先の戦いで銀色の粒子を吸収し、階位が上昇した経験は、その激痛と共に彼の記憶に刻まれていた。階位の上昇がもたらす苦痛を再び味わうことには、彼は明らかに気が進まなかった。しかも痛みは前回より増加しているというおまけ付きだ。


 しかし、その変化が肉体を強化し、自身の能力を高めていることもレンは認識していた。階位の上昇は、彼にとって一種の成就感をもたらしていた。


「ルナ、俺の階位がどのくらい上がってるか分かる?」レンが尋ねると、ルナは驚愕の表情で答えた。


「ええ、もちろん――わお!」ルナは目を輝かせ、レンの体を見つめた。彼女の妖精としての特殊な感覚により、レンの衣類を通しても彼の身体に刻まれたマークや線が感じ取れるのだ。


 レンはルナの反応に好奇心をそそられ、「ん?  どういうことだ?」と尋ねた。


 ルナはレンを詳しく観察しながら、「これはすごいわね……」とつぶやき、レンの階位の上昇に感嘆した。


「レンは騎士の階位だったけど、公爵の階位を倒したことで、かなり階位が上がったわ」


 レンは階位の上昇が容易でないことを知っていたが、より上位の存在を倒すことで、その階位が急激に上昇することもルナから聞いていた。自分より上位の魂を得ることの難しさと、それに伴うリスクの大きさを理解していた。


「そんなに上がってるのか?」レンの興味は、喜びよりも階位の具体的な上昇に向けられていた。


「うん、『伯爵』よ。騎士から3つも上がっているなんて、非常に珍しいことだわ」


 レンは自身の身体に刻まれた線を思い出したかのように慌てて確認し、階位が伯爵にまで上がっていることを実感した。次に目指す階位は大伯爵だと考えながら、自分の線を早速確認すべきだったとルナに謝罪した。


「確認すれば良かったな。ごめん、気が付かなかったよ」


 ルナは微笑みながら、それを軽く受け流した。「大丈夫よ。すぐには慣れないもの。頼ってくれてうれしいわ」


 レンの力が増し普段の何気ない動作で、村人たちに危害を与えないよう注意する必要があることを知った。また、憑依召喚の魔導書を使った村人たちの運命についても、レンの心には疑問が残っていた。

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