第8話:階位の始まりと力との対話(4/10)

「あれは村の人だ……」レンは一瞬で見覚えのある顔を認識し、心配そうにつぶやいた。


「その人族、問題を抱えてるかもしれないわね……」ルナは、人族特有の雰囲気から何か大きな問題を感じ取り、心配の色を隠せなかった。


「魔獣にやられるのか?」レンは直感的にルナに尋ねた。


「それもあるけど、もっと深刻なのは階級の異常さよ。あの人もレンが魔導書を受け取った時と同じだよね?」


「ああ、そうだ」レンはあの日のことを思い出しながら答えた。


「なら、その人は召喚された存在に心を大きく侵食されているわ」


「どうしてわかるんだ?」


「妖精の目には見えるの。その人の階級はレンよりも三ランク上、伯爵級ね。こんな短期間で階級が上がるのは異常だわ」


「つまり、本人の意志はもうないってことか?」


「おそらくね。意識の大半は召喚された存在に支配されている。だからその人自身が知らないうちに、召喚された存在が自由に行動しているのよ」


「召喚された存在にとって、その人がどうなろうと関係ないのか?」


「基本的にはそうね。ただ、何かを成し遂げようとしているなら、その人を大切にするかもしれないわ」


「なぜ?」


「召喚されると、その人に固定されるから。他の者が呼び出されることはないの」


「そうか、つまり、選ばれるのは偶然で、召喚者が生きている間は変わらないんだな」


「ええ、そうよ。もし召喚者が死ぬと、強制的に戻される。次に自分の番が来るのはいつになるか分からないから」


「なるほど、初めに召喚する相手次第なんだな。いい相手を見つければラッキーだ」


「それはどうかしら? 反対に外れだと思う者が多いかもしれないわ。相手は悪魔よ?」


「そうなのか?」


「ええ、あの波長はそうね……」


「少し様子を見ていたいんだ。大丈夫か?」


「変にレンから手出ししなければね」


 戦いはすでに始まっていた。村人は身長を超える大剣を軽々と振り、短剣のように軽々と扱いながら攻撃を仕掛ける。対する魔獣は棍棒で受け流す。


 村人は瞬時に距離を詰め、雷のような速さで刺突を繰り出す。魔獣は棍棒でそれを受け止めるが、村人は剣の柄を高速回転させ、一瞬で貫通し大胸筋を突き刺す。その瞬間、魔獣は地を揺るがすような雄叫びを上げた。


「グモォオオオオ!」魔獣の絶叫が戦場に響き渡る。


 その絶叫を聞いた瞬間、村人は迅速に後退し、魔獣の次の攻撃、握り拳を振るう動きを空振りさせる。血を大量に流しながらも、魔獣は棍棒を再び掴み、急接近を開始した。それまでの受け身の構えから、もはや待っている余裕がなくなったかのように攻撃を仕掛ける。


 村人はその速度に一瞬ついていけず、棍棒の刺突を直接全身で受け止めてしまう。力の差によって軽々と吹き飛ばされ、壁に激突した。しかし、村人はそこで終わることなく、立ち上がり、すぐに反撃へと移る。痛みを押し殺しながらも、敵に間合いを詰めることを選んだ。



 村人の技術は元からのものなのか、それとも召喚された存在の力によるものか、判断は難しい。しかし、その瞬間においては、彼らの戦いは互角に見えた。


 村人は隙を狙って上段からの力強い一撃を放とうとした後、驚異的な速さで剣を引き、連続して刺突を繰り出す。その動きは通常では考えられないものだった。一方、魔獣も受け流しに留まらず、積極的に攻めていく。


 村人が動きを変え、下から上へと袈裟斬りを試みると、魔獣は即座に棍棒で防ごうとする。しかし、その棍棒は村人の剣によって横に真っ二つにされ、魔獣は攻撃を防げず斜めに斬撃が入り血飛沫を上げ大きなダメージを受ける。村人はこれをチャンスと見て、致命打を狙うべく接近し、心臓を目掛けて突きを放とうとした。


 その瞬間、魔獣はすでに破損した棍棒を使い、捨て身で村人の剣を弾くと同時に、剣を手放させ、村人を抱きしめて動きを封じる。魔獣の鼻息は荒く、目は怪しく光り、次の行動に込める力が伝わってきた。


 村人は身動き一つ取れずにいると、魔獣は口を大きく開けた。村人が食らわれると思われたその瞬間、魔獣の口からは赤い閃光が放たれ、村人の頭部を吹き飛ばし、その勢いでダンジョンの壁に大穴を開けた。頭を失った村人の体は、力を失い崩れ落ちた。


 そして、その時、魔獣もまた力尽き、村人と同じく仰向けに倒れて動くことができなくなった。

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