無能の瞳 その者は世界の共犯者〜魔力なしで無能と蔑まれ、他力本願の力に依存する。ああ、俺は有能なお前にはなれない。ああ五感が奪われる【憑依召喚】で体を乗っ取られて、もうすぐ俺が最強だ〜

第8話：階位の始まりと力との対話（3/10）

　階位が一匹の魔獣を倒すだけで上がるとは、レンにとって予想外のことだった。ルナの言葉によれば、階位が上がる際の激痛は、戦闘中に発生すると大変なことになりかねない。突然の痛みにより動けなくなり、その間に敵に襲われるリスクがある。変化自体は歓迎すべきものだが、そのタイミングが戦闘中だと危険は避けられない。

「ルナ、階位を上げるのがもうしばらく先だって言ってたけど、上げるためには具体的に何をすればいいんだ？」レンの声には、前向きな好奇心と少しの不安が混じっていた。

「上位の階位を持つ敵を倒すのが、一番効果的よ。だけど、敵の見極め方は、人それぞれ違うのよ」とルナは説明する。彼女の言葉には自信が満ちており、レンへの助言が彼に新たな視点を与えることを期待していた。

「なるほど、ありがとな。俺も、どんな敵か見極めることに気をつけてみるよ」レンは感謝の意を示し、その言葉には新たな決意がこもっていた。

　ルナは、レンの肯定的な反応に得意げに頷き、彼の学びたいという姿勢に対する応答として、さらなる知識を提供しようとしていた。

「階位が上がることは、どうやって確認するんだ？　すぐにわかるものなのか？」レンがもう一つの疑問を投げかける。

「体のどこかに、階位の上昇を示す特有の印が現れるはずよ。それが、あなたの階位を示しているの。初めて階位が一つ上がるというのは、あなたが一般的な強さに到達したことを意味するわ」とルナが答える。その言葉には、レンが自分自身の成長を実感できるような手がかりを与える意図があった。

　レンはルナの言葉を聞き、自分の身体を慎重に調べ始める。そして、腹や胸に現れた特徴的なマークを発見する――十三本の横線と鳩尾の上のあたりに、握り拳程度の円が描かれた階位の変化を示す印。この発見は、彼の中で新たな自覚と可能性への気づきを促し、彼の成長の一歩を象徴していた。

「これが、階位のマークなんだな……」レンは自身の身体に現れた印を見つめ、その意味を理解しようとした。

「ええ、まさにそうよ。その横線の数がレンの階級を示しているの。そして、その円があることで、総数が十四になるわ。階位が上がるたびに、その線は一本ずつ消えていくのよ」とルナが説明する。彼女の声には、この世界のシステムに対する詳細な知識が反映されていた。

「他の人たちはどういうマークを持っているんだ？」レンが好奇心をもって尋ねると、ルナは「多くの人は、動物をモチーフにしたデザインを持っているわ」と答えた。この情報は、レンにこの新しい世界の多様性と神秘性を改めて感じさせた。

　レンは、階位が上がることで肉体が劇的に変化するという事実に興味を持ちつつも、その影響について深く考え込んだ。「階位が現れたってことは、ようやくこの世界に慣れてきたのかもしれないな。とにかく、階位を上げるなら、慎重に一体ずつ倒していこうか」

「そうね、クロウもやる気満々みたいよ」とルナが応じる。その言葉に励まされ、クロウは尻尾を振りながら意気込みを示した。

　レンとクロウがダンジョンの探索を続ける中、彼らは不思議なほどに他の探索者や敵対する魔獣に遭遇しない。この静寂が何を意味するのか、レンは考え込む。彼にとって、この静けさは不安と期待を同時に呼び起こすものであり、新たな謎や挑戦が待ち受けていることを予感させた。

　レンにとって、ダンジョン探索は全てが新鮮で、何が普通なのかさえ判然としない。ルナも長年の囚われ生活で現代の常識からは幾分か遠ざかっており、二人は不穏な静けさの中で何かがおかしいと感じ取る。

「この静寂……何かが違うわ」ルナが言葉にすると、クロウも何かを察したかのように周囲を警戒し始める。レンは、何が彼らを待ち受けているのか確かめるべく、慎重に角を覗き込む。

　目の前には、死の匂いを放つ存在がいた。一体だけれど、その圧倒的な存在感は全てを滅ぼす力を秘めているかのよう。その魔獣は、誰もが一目で殺戮の化身と認識するような恐怖を感じさせる。

「二つの足で人のように立ち、五メートルはある大きさ……、全身焦茶色で、筋骨隆々……。これほどまでに恐ろしい姿をした魔獣が、こんなにも近くに……」

　レンの戸惑いに対して、ルナは冷静に状況を判断する。「レン、この浅瀬にこんな魔獣がいるなんて異常よ。ここからは退くべき」

「あれは、どれくらい強いんだ？」レンが尋ねると、ルナは即座に答える。「『公爵』よ。レンの現在の階位からすれば、5段階も上。騎士、総裁、大総裁、伯爵、大伯爵、公爵という感じね。こんなところで直接対峙するのは、無謀よ」

　レンはその情報を咀嚼し、納得するしかなかった。「そうか……、公爵か」

　しかし、警戒を解くことなくゆっくりと後退しようとする中、不運にも小石を蹴ってしまう。その軽快な音が、この静けさを一瞬で破り、魔獣の注意を引いてしまった。

「くそっ、バレたか……！」レンが叫ぶと、ルナはさらに緊迫した声で告げる。「待って、誰かが来るわ！」

　その時、別の通路から誰かが現れ、魔獣と直接対峙する。この予期せぬ展開に、レンもルナも息を呑む。