第7話:召喚されし者との誓約(2/4)

 転移者村の村人たちによる、これまでにない規模の魔獣討伐は、ダンジョンを取り巻く環境にも変化をもたらしていた。市場ではこれまでにない種類の素材が流通し始め、高額で取引されることで新たな経済の活性化にも寄与していた。この新しい流れは、探索ギルドにとっても、村人たちにとっても、未知の可能性を秘めた好循環を生み出していた。


 だが、この突然の成功には裏がある。憑依召喚の魔導書を用いることで得られる力は、その使用者に深刻なリスクをもたらしていた。力の使用ごとに、体の一部を乗っ取られ、最終的には心までが支配下に置かれる可能性があるのだ。この深刻な代償は、使い手にとって大きな試練となりうる。


 この力の魅力に惑わされ、自分の意志を失うことなく力を使いこなせるかが、彼らにとっての真の挑戦である。力との引き換えに何を犠牲にするのか、その選択がこれからの彼らの運命を大きく左右することになる。


 そして、この全ての出来事は、転移者村にとって大きな転機となり、彼らの存在を町中に知らしめるきっかけとなった。しかし、それが彼らにとって幸福を意味するのか、それとも別の試練の始まりなのかは、これからの彼らの選択にかかっている。



 レンは翔子が魔導書を取り込んだことで目覚めた新たな力に気づき、それを探求するため、以前妖精を解放した祠へと彼女を案内することにした。翔子は憑依召喚の魔導書を身につけて以降、魔力への感受性が高まったと感じており、レンが語る妖精の存在についても何か新しい発見があるかもしれないと期待していた。


 翔子は魔導書を取り込んでから、体内で起こる微妙な変化に敏感になっていた。彼女によれば、魔力の流れは霧のように見え、体感としては暖かい湯気を感じるようだという。その魔力は、近づくほどに甘い香りを放ち、人を惹きつける魅力があるとも。


 さらに、翔子は魔力の質にも違いがあることに気づいていた。人それぞれの個性が感じ取れるような、ある種の「香り」に似た感覚があると述べており、不快な感じのする魔力からは自然と距離を取るようにしているそうだ。


 この発見を受けて、レンと翔子は何か他の発見がないかと期待を込めて祠へと向かった。ルナを解放したその場所には、以前は注意を払わなかった引き戸式の棚があることをレンは覚えていた。


 村を出発する際、翔子はいつもと変わらぬ様子で、むしろどこか気楽そうにも見えた。憑依召喚の魔導書を使用してダンジョンに向かった村人たちが多いため、日常の食事の準備が一時的に必要なくなったからだ。


「翔子さん、何か違和感はありませんか?」とレンが尋ねると、翔子は「今のところは大丈夫。魔力に関すること以外は何も変わりないわ。ありがとうレン君」と安心させてくれた。


「何か少しでもおかしいと感じたら、すぐに教えてくださいね」とレンが気遣うと、翔子は嬉しそうに微笑んだ。「ありがとう。あなたがそばにいてくれると心強いわ」


 祠に到着すると、二人は変わらぬその姿に感慨深くなった。「異世界で祠を見るなんて」と翔子が言うと、レンも「初めて見たときは本当に驚いた」と感想を述べた。散らばる壺の破片を横目に、奥にある戸棚は、何も封印されていないと判断して、中を確認することに。引き戸を開けると、中から黒い鞘に収められた美しい刀が姿を現した。

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