第5話:残忍な勇者と抗う決意(1/2)


 その日、空は雨を予告するかのように暗い雲に覆われていた。昼間であるにも関わらず、周囲は薄暗く、まるで徴兵された者たちの沈んだ心情を映し出しているかのようだった。


 この気持ちを引き起こした原因は明らかだ。ギルドからの通知通り、全員が獣人との国境での衝突に参加するために召集されたのだ。勇者の方法は強引かつ独裁的で、参加しない者は処刑するとまで言っていた。このような強権が認められているのは、彼の影響力が法を越えた存在であることを意味している。勇者の地位は他に類を見ないもので、絶大な権力と特権を誇っていた。これらは王から与えられた特別な権限であり、彼の行動は王宮でさえ黙認されていた。


 かつての勇者は、町の人々に愛される温和な少年だった。しかし、過酷な闘争が彼を激変させた。魔獣との戦いで受ける数々の死と蘇生は、彼の内面に深い傷を刻み、徐々に彼の心を闇が包み込み支配していった。

 蘇生のたびに、彼の記憶は死の直前の恐怖に引き戻され、その衝撃は彼の精神を蝕んだ。かつての優しさは真逆となって、予測不可能な凶暴さに置き換わり、彼の言葉は以前の温かみを失い他者の心を抉る。


 四度目の蘇生を境に、変貌は一層明白になった。彼の瞳にはかつての輝きが消え、代わりに混乱と怠惰と怒り混ざり合い渦巻く。周囲はその変化に戸惑い、恐れを抱くようになった。彼の行動は予測がつかず、良心などはとうに失われ、かつての英雄の面影はもはや見る影もない。現在の勇者の状態がまさに最悪の例である。


 蓮司らの決断は、この変わり果てた勇者への対応に迫られた結果だった。勇者の最近の命令は、人間性を疑わせるものであり、その非人道的な指示に従うことは、彼らにとって苦渋の選択だった。

 

 勇者の非道さは、悍ましい。『木の槍』だけで敵に立ち向かうよう指示されたのだ。一体その武器で何と戦えというのだろうか。相手は魔法が使えるにも関わらず、集まった者たちの手には木の槍のみ。このような不利な状況下での戦闘は極めて無謀である。


 相手には魔法という強力な武器がありながら、彼らに与えられた物だけでは丸腰同然だった。苦しいことに、参加を拒否すれば神に反逆したとして勇者に殺されてしまう。戦う敵も勇者も、どちらにせよ避けられない敵である。強制参加させられた者たちは力で明らかに劣っている状況で、反抗する術もない。


 まるで遠い昔の戦時中に経験した竹槍特攻を彷彿とさせる。「そんなの無理だ!」と多くが声を上げるが、結局のところ、従う以外に選択肢はない。敵陣に突撃することが、わずかでも生き残る可能性を見出せるからだ。


 勇者は、蓮司たちを含む参加者を生かす意図など、最初からないことが明らかだった。彼はただ数字を揃えることに関心があり、その背後には、魔力を持たない者たちを救うという名目のもとに前線に立つ勇者という物語が透けて見える。


 この厳しい現実が、参加者全員を深い絶望に陥れた。勇者からの無謀な命令と、それに対する抗いがたい強制参加は、彼らの心を絶望に縛り付け、不安と恐怖の沼に沈められた。勇者の真の意図や、彼の精神状態の変化についての知識は、状況をより複雑なものにしている。

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