第4話:勇者の影に潜む危機(2/2)

 村に戻った蓮司たちは、冴島のもとへ直行した。蓮司は焦りを帯びた声で呼びかける。


「冴島さん! いますか? 緊急の用件です!」


 冴島はいつも通りの穏やかな笑顔で迎えてくれたが、「どうしたんだい? レン君が慌てるとは珍しいね」と心配げに尋ねる。


 蓮司はすぐさま、ギルドでの異常な徴兵命令について報告した。その話を聞いた冴島は、一変して真剣な表情になり、緊急を告げる鐘を鳴らし始めた。村の人々が一斉に集まり始め、翔子も不安そうに蓮司の腕を掴む。


「レン君、何が起こったの?」翔子の声には明らかな心配が込められていた。


「勇者から徴兵の命令が出ました。集合は間もなくです」蓮司の説明には、不安と怒りが混じり合っていた。


 勇者による突然の徴兵は、冴島にも村にとっても予期せぬ出来事だった。特に過去に勇者の理不尽な行動によって犠牲になった者がいることを思い出せば、その命令は重くのしかかる。しかし、神託や王族たちも勇者を優遇し続けており、その背後には何か不可解な理由があるとされていた。


 冴島の短い言葉「ついにきたか」という一言で、集まった村人たちは状況を悟る。不安と緊張が一気に広がり、どうすべきかという声が上がる中、冴島は深い苦悩を抱えていた。


 過去に勇者と対立し、多大な犠牲を払った経験があるため、村人たちは再びその苦難を迎えるのかと憂えていた。選択肢は、勇者の命令に従って生きるか、反抗して確実に死ぬか、の二択しかなかった。


 冴島と村人たちは、勇者の圧倒的な力と傍若無人な振る舞いを知っていた。しかし、蓮司の加入により、少なくとも人数の不足による追加の犠牲は避けられそうだった。それでも、力のない彼らが受ける理不尽な扱いには変わりなく、村全体が重い空気に包まれていた。


 この状況は、蓮司にとっても未知の試練だった。力を持たない彼らが、勇者の圧倒的な権力にどう立ち向かえるのか。村の未来と安全を守るために、冴島と共に何か策を練らなければならない時が来ていた。



 ルナは、勇者の存在とその圧倒的な力について疑問を持ち、蓮司に尋ねる。「レン……。勇者って、本当にそんなに強いの?」蓮司は深刻な面持ちで応えた。「ああ、実際には見たことがないけど、周りの話によると、神から特別な力を授かっているらしい。その力は想像を遥かに超えているものと聞いたよ」


 このやり取りから、勇者が持つ力の大きさと、その力を持ちながらなぜ「力のない」村人を戦場へと送り込むのかという矛盾に、二人は深く悩む。蓮司は、その答えが「娯楽」という残酷な真実にあることを類推した。勇者にとって、力のない村人たちはただの道具に過ぎない。勇者は自己の力を誇示し、自分の楽しみを満たすためだけに彼らを使った。


 敵対する相手が人族以外の場合、勇者は無敵とも言えるが、人族相手だと勇者同士の衝突を避ける傾向にある。その理由は、勇者同士の争いが両者にとって致命的な結果を招く可能性があるからだ。勇者の存在自体が消滅するリスクを恐れ、相互に非戦を選択しているのである。


 さらに、勇者の行動は神託によって正当化され、勇者により徴兵され戦死した者たちは、勇者の偉業の一環として讃えられる。外見上は力及ばずとも集まったのは勇者の人望が高いとされるが、実際には力のない者たちを無謀にも戦場に送り出し、彼らの命を軽んじる行為に他ならない。


 村人たちにとって、このような状況は受け入れがたい現実だ。弱者が力を得ることができれば、勇者の理不尽な要求から逃れることができるかもしれないという希望を持ちつつも、その方法を見つけ出すことは容易ではない。蓮司とルナは、この厳しい現実に立ち向かう方法を模索する中で、力を得ることの重要性を改めて認識するのだった。


 

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