第4話:勇者の影に潜む危機(1/2)

 蓮司とルナは、新鮮な気持ちで賑わう町を歩いていた。ルナは蓮司によって封印から解放されたばかりで、彼女の目は好奇心に満ちており、町の光景を興味深く観察していた。


「なんか騒がしいね? 何が起きているのかな?」ルナが不思議そうに尋ねると、蓮司は周囲の雰囲気から何かを察していた。


「うん、少し様子を見てみようか」彼は提案し、二人は探索ギルドの内部へと目を向けた。そこでは、人々が口々に話し、紛争や最前線への派遣についての不安を共有している様子が伺えた。


 耳を澄ますと、「また起きた」「今度は最前線送りだ」「相手は帝国の奴らか?」といった言葉が聞こえてきた。これらの会話からは、強制的に最前線に送られることへの恐怖や不満が感じられ、生還率の低さや指揮者の無計画な采配に対する不信感が明らかになっていた。そして、その中心にいるのが「勇者」という存在であることが判明する。


「勇者って、本当にいるんだね」蓮司は内心で、自分にはない人を導き、仲間を守る力を持つ勇者の存在に、憧れと羨望を感じていた。


 勇者が持つ力、それは戦場での英雄的行為や、魔法を駆使した壮大な伝説にまで及ぶ。蓮司自身、この魔力のある世界において自分の役割を模索中であったが、こうした話を聞くと、力の無い自分にも何かできることがあるのではないかと考え始める。


 しかし、町の雰囲気は一層重くなり、「近日中に大規模な戦が起きるかもしれない」という噂が流れていた。この予測される戦は、国境を巡る争いの激化が原因であり、蓮司とルナにとって未知の世界の脅威が迫っていることを意味していた。


「この町にも、平和だけではない現実があるのね……」ルナの言葉に、蓮司は深く頷いた。二人にとって、この先には予測不能な困難が待ち受けていることが明らかになった。



 蓮司とルナは、町の探索ギルド内の騒動に巻き込まれた。ギルド職員の一人が慌ただしく、他の依頼書とは明らかに大きさが異なる新しい掲示物を掲示板に貼り出していた。この異変に、周囲の人々が集まり始め、蓮司とルナもその中に加わった。


 掲示された内容に目を通すと、不満の声が周りから上がり始める。「おいおい、そりゃないぜ」「これじゃあ死ねって言ってるようなもんだ」「強制参加かよ、自由を謳ってた探索ギルドはどこへ行ったんだ?」そして「勇者が絡んでるのか、それは納得いかないな」という声も。


 掲示された内容は、勇者による極めて理不尽な命令であり、時間と場所を指定し、現れなかった者は後日個別に追跡すると脅迫していた。過去に勇者に逆らった者は、例外なく惨殺されているという。この異常なまでの理不尽さは、住民たちの不満を爆発させていた。


 しかし、この勇者に対する無条件の自由は、国や教会、そして神からも許されているようで、「勇者は神の寵愛を受け、直接の力を授けられており、その体自体が価値を持つ」という話もある。死後、蘇生が叶わなかった勇者は、なんらかの供物にされるという噂もある。勇者が「素材」と称される理由は、神託によって新たな勇者が提供されるシステムにあるらしい。


 ルナはこの騒ぎに興味を示し、蓮司に問う。「ねえレン、ここの雰囲気はいつもこんなに不穏なの?」


「いや、今回が初めてだ」蓮司が答える。


「掲示物を知らない人は、どう対応すればいいの?」とルナは素朴な疑問をあげた。


「そうだな、要は「知らなかったは通用しない、お前らが悪い」と言いたいんだろう」


「本当に酷い話だね」ルナが同情する。


「ああ、酷いな。転移者村も名指しで指定いるしルナ、帰ろう。冴島にこのことを伝えなきゃならない」蓮司は帰路を急いだ。


 この予期せぬ事態にどう立ち向かうか、ルナと共に次の行動を考え始める。

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