第2話:未知への共感(9/9)
「となると? ひょっとして魔力がないと、めちゃくちゃ難易度が高い?」蓮司の声には、解決への道のりが険しいことへの懸念が込められていた。
「そんなことないわ。あなたの血で札にバツを書いてくれれば剥がれると思う。試しに今の状態で触れてみればわかるわ」
半信半疑で左側の札に触れてみると、蓮司は不可解さを覚えた。「あれ? なんだこれ? びくともしないぞ!」
紙のように見える札が、まるで鋼のように硬い。妖精の予想通りの結果に、彼は深く考え込む。その蓮司の様子を感じた妖精は、「やはり、あなたの魔力のない血でなければ解けないわ。もしくは、封じた者の魔力を超える人の血、どちらかね」と想定通りのようだ。
蓮司は河原で見つけた、刃物のように鋭利な黒曜石を手にしていた。この石が今、彼にとっては、ただの石以上の価値を持つことになるとは、拾った時点では想像もしていなかった。彼の目の前には、封印解除の鍵となる儀式が待っていた。
妖精からの指示は明確だった――人間の血が必要だと。しかし、自らの身を傷つける行為に対する躊躇いは、決して小さなものではなかった。そんな時、蓮司は自身に問いかけ、深呼吸をして心を落ち着けた。その決意のもと、彼は黒曜石を使い指先を軽く傷つけた。
「そしたら、この石で指先を切った! さっさとやるぞ!」蓮司の声には、決意が込められていた。
妖精の返答は励ましの言葉で、「うん。気をつけてね」と気遣いがあった。蓮司は、指先から滴る血を用いて、祠の札にバツ印を描き始めた。この行為が、封印を解く鍵だというのは、彼にとっても未知の試みだった。
蓮司が札に触れると、見た目とは異なり、何も変わらないように見えた。ところが数秒もしないうちに変化が訪れ、札が血を用いて描かれたバツ印に反応し、異変を起こし始めた。防御魔法が自壊するという、予想外の現象が起きる。この魔法は、魔力を持たない蓮司の血によって混乱し、自壊したのだ。
目の前の成功に気を良くした蓮司は、残りの札にも同じ手順を試みる。札が砂のように崩れる様子は、彼にとって科学では説明できない不思議な体験だった。見えない力が、目に見える形で現れる瞬間を目の当たりにし、蓮司はその神秘に心を奪われた。
恐怖と興奮の入り混じる中で、彼はしめ縄にも血でバツ印を描く勇気を見せる。すると、そのしめ縄もまた、砂のように崩れ、祠の床に白い砂山を作った。この一連の出来事は、蓮司にとって異世界での新たな発見となった。
蓮司の行動によって、時間が再び動き出したかのような錯覚を覚える瞬間が訪れた。札に描かれたバツ印で風化し、崩れ去る光景は、まるで長い間の静寂を破るかのようだった。しかし、壺の蓋に同じ手法を試しても、何の変化も起こらなかった。
「説明しておくけど、蓋は多分今回の方法では解けないわ」と妖精は言った。その言葉に、蓮司は戸惑いを隠せなかった。「どうしてまた急に?」と彼は尋ねる。
「蓋だけは、状態保持の魔法をかけているはずなのよ」と妖精が説明すると、蓮司は「どうりで何も起きないわけか。それでどうする?」と続けた。
妖精は、保持の魔法を解除する方法についてもまた魔法であると述べ、周りの封印が解けているから壊せると言う。破損箇所が急に大きくなれば、その一瞬の隙をついて逃げ出すことができると語った。
蓮司は、妖精の解放に向けて、祠の中で壺を破壊することに決めた。「なんか祠の中の物を壊すのって、罰当たりな感じだな」と躊躇しつつも、「そしたら思いっきり行くからな? 物理的な壊し方でそっちは傷とか大丈夫なのか?」と確認した。
妖精は、「うん! 大丈夫だよ。今は魂だけの存在だし、気をつけてね!」と安心させ、蓮司は壺に対して力いっぱいの一撃を加えた。何度かの試みの後、壺はついに破壊され、妖精の解放が実現した。
解放の瞬間、驚くべき光景が蓮司を襲った。壺から解き放たれた光は、マグネシウムの燃焼を思わせるほどの眩しさで、「解けた! ありがとー」と妖精の声が響く中、蓮司は目を手で覆ったが時すでに遅く、視界が真っ白になる。「何ッ……! 目を……!」驚きとともに蓮司が呟いた。強烈な光が彼の視界を真っ白に塗り替え、一時的に世界から色を奪った……。
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