第2話:未知への共感(7/9)

 転移者の村に来てから一週間。

 昼下がりの輝く太陽のもとで、蓮司は石垣作りに必要な石を運んでいた。近くの浅い川から、人の頭ほどもある重い石を籠に詰め運ぶのが、その日の依頼だった。籠の限界を考え、一度に運べる石はせいぜい三個までだった。この繰り返しの労働は、思わぬ肉体労働となっていた。


 川辺は、密生した木々に囲まれた静かな場所。その清らかさにより、膝程度の深さの浅い川でさえ、まるで魚を手に取るように見えた。蓮司は、せっせと石を籠に詰め込む中、突如として少女の声が聞こえてきた。


「聞こえている? ねえ、聞こえていたら返事をして?」


 驚き、周囲を見回すが、誰の姿もない。気のせいかと思いつつも、再び声が響く。


「ねえ、聞こえている? 気のせいじゃないよ」


 蓮司は、この未知の体験に戸惑いつつも、心を落ち着けて返答した。「俺の声が届くのか?」


「怖がらないで。微かに聞こえるわ。心に念じてね、声は届くわ」


「こんな感じか? 聞こえるか?」


「ええ! さっきよりも聞こえるわ」


 この交流は、蓮司にとって未知の世界へ誘う瞬間だった。彼女は自分を妖精だと名乗った。心臓が高鳴り、蓮司はこの幻想的な遭遇に興奮を覚えた。見えないけれど、声だけが心に響くこの体験は、彼にとって全く新しい世界の発見だった。


 妖精との対話は、蓮司に多くの疑問を抱かせた。なぜ彼女は蓮司に声をかけたのか? この異世界での出会いは、蓮司に未知なる好奇心を抱かせた。


「妖精? なぜ俺に声をかけるんだ? 魔力は持っていないぞ」


 彼女の返答は蓮司の心を捉えた。「だからこそよ。魔力がある人では近づけない場所があるの。魔力がない人でなければダメなの」


 この不思議な交流が、蓮司に新たな使命感をもたらした。妖精の頼みは、封印を解くこと。


 蓮司は、突如として心に響く妖精の声によって、予期せぬ冒険の扉を開かされた。異世界の風景の中で、彼の日常は一変し、未知の存在との対話が始まった。彼の心臓は急激に鼓動を速め、同時に湧き上がる疑問と、懇願に応えるべきかの葛藤が心を揺さぶる。


「封印? 俺にできることがあるのか? 封印とやらは全く知らないぞ?」


 妖精の答えは、蓮司の想像を超えたものだった。「大丈夫、言う通りにしてくれればいいの。封印はね、私が壺の中に閉じ込められる魔法のこと。解くには魔力のない人間の血が必要なのよ。だから、君にお願いしているの」


 この突然の願いに、蓮司は心を揺り動かされた。妖精と名乗るこの声は、切羽詰まった様子で助けを求めていた。声のトーンから、その切実さが伝わり、彼は自らがこの異世界で果たすべき役割について考え始める。


 封印解除の依頼は、蓮司にとって未知の領域への一歩を意味していた。信じるべきか、疑うべきか、その判断は容易ではなかった。しかし、未知の知的生命との対話に、彼の好奇心は刺激され、心は踊り始める。

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