第2話:未知への共感(6/9)

 しかし、翔子の心がまだ過去に留まっていることへの葛藤も深まった。愛と不安、疑念が交錯し、蓮司は苦しんだ。


「どうしてこんなに苦しんでいるんだろう、俺は……」と蓮司がぽつりとつぶやいた。その時、翔子が静かに彼の後ろに現れ、慰めるように優しく彼の顔をのぞき込んだ。「レン君、どうしたの?」彼女の瞳には時折、強い思い詰める光が宿っていた。翔子を守るアキトへの思いが、声にならない彼女の唇から伝わってきた。


 蓮司は翔子の苦しみを和らげたいと願いながらも、彼女の心が少しでも安らぐ様子を見たいと切望した。彼女の暖かさと柔らかさが背中に感じられるとき、蓮司の心は喜びと同時に寂しさで満たされた。


 蓮司は翔子が違う人物を見ていることを理解しながらも、自分の状況を変えられないでいる。翔子とのやりとりは、そんな彼の心情に深く触れる瞬間だった。


「翔子さん、ちょっと距離が近いですよ……」


「ふふ、顔が赤いわね。体調が悪いのかしら?」


「いえ、体調は大丈夫です。それよりも……」


 このやりとりの中で、蓮司は翔子の親しみやすさに触れる。彼女は蓮司の上半身に触れ、突然彼の体の状態を確かめ始める。「体は丈夫ね」と言いながら、蓮司の腕や背中を軽くたたく。このスキンシップは彼にとって新鮮な喜びだった。


「翔子さん、何かありました?」


 翔子の表情は急に変わり、何かを困っているようにも見える。「ちょっと手伝ってほしいの」と彼女は言う。


 蓮司はすぐに「何を手伝えばいいですか?」と尋ねる。彼は翔子からの頼み事に心から応えたいと思う。それは彼が翔子に対して抱いている特別な感情から来ているのかもしれない。


「水汲みを手伝ってくれる?」と翔子が尋ねる。その笑顔は蓮司を安心させた。そして彼は喜んで承諾する。


 蓮司は翔子の人との距離の取り方、微笑みや視線の使い方に心を奪われる。彼女の笑顔は彼にとって、この殺伐とした世界で唯一の慰めだ。


 この異世界での生活は厳しい。魔力がすべてで、それがなければ無能と見なされ差別を受ける。仕事は雑用が中心で、魔獣からの襲撃も常に脅威だ。生きること自体が危険で、命の価値は軽く見られがち。自分の身は自分で守るしかないのだ。


 そんな世界で翔子の優しさに触れることは、蓮司にとってかけがえのないもの。そして翔子の微笑みは、蓮司にとって不思議な安らぎをもたらす。この厳しい現実でも彼女の優しさが彼の心を解き放ち、彼女の存在が彼に希望の光を与える。


 蓮司は、異世界での役割を模索していた。彼の能力は、この新たな世界での価値が未知数であるものの、彼は自身の持つ不屈の精神を信じていた。蓮司は、困難に直面しても諦めないことで道が開けるという信念を持っていた。

 この異世界の厳しい現実に直面すると、彼は人々のわずかな優しさに心を開き、それが自分をさらに脆弱にしていることを感じ取っていた。翔子から水汲みや火おこしの依頼を受けたとき、蓮司は熱心に取り組んだ。彼女に少しでも良く思われたいという願望が彼を動かしていたのだ。しかし、近代的な生活から一転してこのような作業に取り組むことは、想像以上に困難であり、蓮司にとっては重労働に感じられた。

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