第2話 魔術師の黎明

「アナウンスです、アナウンスです。繰り返します。アナウンスです、アナウンスです」


「なんだァ、コレ……」


 メフメトの呟きに風来が答える。


「知らないってことは初めてか。なら教えてやる、アレはAから10までのホムンクルスを倒した時に流れるアナウンスだ。ここまでお前らは戦ってきたんだろうが、慢心するなよ。戦いはここからだ。――ところで、俺とお前以外では、あと何人生きている?」


「俺達で、最後だ」


「そうか」


 数秒の沈黙の後に、アナウンスが続く。


「これにて、Aから10までのホムンクルスが全て倒されました。皆さんお疲れ様です。そして、皆さんには新たな戦いを提供致します。苦しい戦いになるとは思いますが、ご健闘を祈ります」


 そうしてアナウンスは止んだ。その時だった。


『Alcana Rise ! Ace Sword !』


 炎の剣がマジシャンライザーに向けて振り下ろされた。それをバックステップで避けた後、呆れたようにマジシャンライザーは言う。


「さっきと言い今と言い、どうしてアンタも他の奴らも、他のライザーを攻撃する?助け合うのがルールじゃなかったのか?ライザーの数は全部で22人!もう20人死んだ!なのにどうして殺し合う!これからの戦いは、もっと苦しくなるんだぞ!」


「だから近道を選ぶんじゃないか……」


「近道ィ?」


「おっと、その様子じゃあ分からんみたいだな。なら教えてやる。このゲームを終わらせる、もう一つの方法をな」


「もう一つ、だと?そんなものは有り得ない。ホムンクルスを全員倒すのが、このゲームを終わらせる、唯一の方法じゃなかったのか?」


「違うね。このゲームに参加した22人のアルカナライザーの内、自分以外の全員を殺すこと。それがこのゲームを終わらせる、もう一つの方法だ」


「嘘だなそいつは。体のいい嘘さ」


「なら証明してやろう。あいにく俺が殺すのは2人で済むしな」


 そう言い、フールライザーは炎の剣を両手で持ち、上段で構え、マジシャンライザーの左肩に向けて振り下ろした。炎の剣はマジシャンライザーの左肩に当たると共に、その肉を容易く焼き切った。


「だああああああッッッッッ!!!!!」


 悲鳴と同時に、装甲を纏った左腕が地面に落ちた。メフメトはここでようやく、目の前の男が本当に自分を殺そうとしているということに気がついた。メフメトは酷く恐怖した。一刻も早く、この場から立ち去らねばと、そう思った。


 しかし無常なことに、炎の剣はマジシャンライザーの胸を貫いた。炎の影響で内蔵は焼け、一瞬の内にメフメトは死んだ。


 そうしてフールライザー、真柿風来はこのゲームをクリアすることに成功したのであった。




 だが、ここまでは粗筋。ここからが本編。




 そして22人の騎士達の物語が、再び始まる。

―――――――――――――――――――――舞獅巡まじし めぐるは明日から大学生であった。一人暮らしをするにあたっての用事も一通り片付き、東京の街を宛もなくフラフラしている時だった。ふと視界の隅に入った喫茶店のテラス席。そこに男がいた。男は金髪で、シャツもネクタイもジャケットも、全てが赤色の奇妙なスーツを着ていた。

 巡はその男がふと、自分に視線を向けたような気がした。杞憂であるかとも思ったが、再び視線を感じたので、男の奇妙な出で立ちを、しっかりと自らの網膜に収めることにした。

 男が自身に話しかけてきたのは、ちょうどその時であった。


「そこのボウズ、叶えたい願いはあるか?」


「はぁ……。願い、ですか」


「そうだ願いだ。何かあるだろ?」


 巡は困惑した。何故なら数日前から、今までとは違う自分になりたいという欲求が、彼の中でふつふつと湧き上がっていたからだ。

 何故かは分かっていた。大学進学だ。

 これまでの彼はパッとしない人間であったので、それを変えたいと思っていたのだ。

 彼はそれを正直に、金髪の男に言うことにした。


「強いて言うならですね……そうですね、自分を変えたいです」


 それを聞いた男は、自身のジャケットの内ポケットから、一つの赤いパスの様なものを取り出した。そのパスにはまるで魔術師のようにローブを着、杖を持った男が描かれていた。

 金髪の男はそのパスを巡に投げ渡した。

 巡がそのパスを受け取ったのを見た後に男が言った。


「ソイツが否が応でもお前自身を変えてくれるさ。では、健闘を祈る」


 気がつくと、金髪の男は消えていた。

 しかし巡の手の中にはしっかりと、先程あの男に渡された、魔術師が描かれた赤いパスがあった。


 この時の巡はまだ知らない。それが彼を、大いなる戦いに巻き込むことを。そして、を。






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