第4話 空港にて(2)

 彼女は唖然とした表情だ。


「せ、説明させてくれ、ちょっとこっちへ」


目の前に空港の職員がいるので身分証がないのがバレるとまずい。

急いで後ろのロビーまで彼女を引っ張って戻る。


「実は俺、戸籍持ってなくて。。。かくかくしかじか」


今までの経緯を説明する。


「……」


「ですよね。規約違反なのは分かっています。だけど頼みます!これがないと俺生活できないんです!!」


「ぐすん………わかりました。」


長い沈黙の中彼女が口を開く。


「上に連絡します…。」


プルルルルルル


プルルルルガチャッ


「またお前か。ハーフィズさん見たかった?」


男の声が聞こえる。おそらく上司だろう。


「あの、実は…」


彼女がことの経緯を説明する。


「おい!!!!」


怒号が携帯のスピーカーから聞こえる。とんでもない声デカさだ。


「ふひぇ」


彼女が声にならない声を出す。


「直接ボスに連絡しなきゃいけねぇだろ!!!お前覚悟しとけよ!!!電話切らずに待っとけ!!!」


「はひぃ。」


♫〜(保留音)


リヒャルト・ワーグナーのワルキューレの騎行が流れる。



ポチャ



彼女の頬から涙がこぼれ落ちる。


「だ、大丈夫ですか?」


心配し声をかけてみるが返事がない。


しばらく時間が経過し、保留が切れる。


「おい、そいつ連れてきていいってよ。早く戻ってこい。あと出国審査とかは通すな。直接飛行機んとこまで降りてこい。」


「え?でもそんなことできな」


彼女の言葉を遮るように上司が怒鳴る。


「できねえじゃねえ!!やるんだよ!!」


そのまま怒鳴り続ける上司。


「もうこっちで“いろいろ”しといたから!早く連れてこい!!!」


「すみません。今度から…」


ブツッ


「あっ、キレチャッタ‥」


「なんかすいません…」


モスリーはバツが悪そうに謝った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る