第3話 空港にて

 出発当日、けたたましい携帯の着信音で目を覚ます。

だれかと思えば、GSN(グローバル・セキュリティ・ネットワーク)社からだ。


「はい。ハーフィズ(登録時の名前)です。」


拙いアラビア語で若い女性が喋っているのが聞こえる。


「あっ、あの、朝早くに申し訳ありません…こちらは…えと、」


どうやらアラビア語初学者のようだ。


「…無理しなくて大丈夫ですよ。私英語喋れますので。」


そう英語で返答する。


「あ、よかった…じゃなくてありがとうございます!」


英語で帰ってきたがどうやらあがり気味なのは元々らしい。


「…それで要件は?」


「あの、大変申し訳ないんですけど、あなたの最寄りの空港はまだ危険かもということで、申し訳ないんですけどバグダダド国際空港の◯番ターミナルまで来てください!!」


「えと…バグダッド国際空港のことですか?」


「それです!!」


困った。家からそこまで行くのは少々面倒臭い。


「迎えの車とかは‥」


「無理です!!アッ‥ゴソクロウオカケシマス…。」


(えぇ‥)


「すごく遅れるかもしれませんが、大丈夫ですか?」


「わかりました‥私の方から上に連絡します…」


ガチャッ


電話を切られてしまった。


「マジか。。。」


———数時間後———


ブウゥン‥キイッ


 ボロいハイラックスが勢いよく停車する。

ようやく着いた。バグダッド国際空港だ。


(やっと着いた。)


おそらく予定より五時間遅れだ。

 急いで空港のロビーに向かう。

息切れするほど走り、ようやくロビーに到着し時計を見ると、もう予定を六時間遅れていた。


(くそ、これじゃあまるで俺がとんでもない非常識な奴じゃないか)


取り敢えず疲れたので近くにあった椅子に座り、持参した水筒から水を飲む。


「あっ!あの!!」


突如遠くから聞き慣れた女性の声がする。


振り返ると、スーツを着たボブカットの日系女性がアラブ人に片っ端から声をかけている。


「もしかしてハーフィズさんですか?」


「はい?違いますけど。」


見知らぬ男性が狐につままれたような顔をしている。


(あの声、あのあがり症のような動き…まさか俺の案内人か?っていうかずっと俺を探していたのか?)


「すいませーん!私がハーフィズです。」


すぐに声をかけに行く。


「うぅ…」


「私五時間も待ったんですよ…」


涙目で話しかけてくる女性。

間違いない。電話で対応してくれた女性だ。


「これって俺のせい…?」


思わず本音が出てしまう。


「早く行きましょう!!私クビかもしれません…!」


ゲートまで無理やり引きずられていく。


「あっちょっと待って!!俺言わないといけないことあるんだった!」


ゲートの手前で彼女を引き止める。


「お、俺、実はハーフィズじゃないんです。。」


「え?」

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