第2話 アル・モスリー

「今日はこれだけか。」


 そう呟いている赤い目の男の名はアル・モスリーだ。

 彼が入っていたイラクの対テロ部隊で、呼び名がないと困るといわれ、名付けてもらったものだ。彼の出身であるモスルという地名から取られた。

 モスリーは、今日の戦利品を袋から出し、眺める。出てきたのは爆弾と携帯だけだ。爆弾など売れるわけがないので店に出す候補からは外す。次に携帯の電源を入れた。電源はつくがロックがかかっておりそれ以上のことはできない。


「こんなの金にならない。」


 だが、もしも携帯の番号がわかればテロリストの仲間の情報が手に入るかもしれない。そうすれば、この街からテロリストを排除できる。


「取り敢えずしまっておこう。」


そう言って店の奥にある棚にしまった。

ふと時計を見る。もう夜の10時だ。


「今日はもう寝よう」


 彼はカウンターにマットレスを敷いた。

横になり、目を閉じ、しばらくしてポケットから自分の携帯が振動しているのとに気づく。

通知だ。

彼はいつも敵にバレないようにするためマナーモードにしている。

メールを開くとそこにはウーバー傭兵の運営元からの通知が来ていた。


【ダイヤモンド昇格おめでとうございます。あなたが5人目です。】


 彼は暇な時はかつての街を取り戻すため、非合法だが自主的にテロリストを排除している

だがそれだけでは生活できないので、戦利品を売るため誰も住んでいない空き家で質屋を開いている。

しかしそれでも十分な暮らしはできないので、最近やたらネットの広告で見るウーバー傭兵というサービスに登録することにした。それからは一日のうちの大半をウーバー傭兵に費やしている。

 クライアントが提示するミッションをクリアすれば報酬が入り、一作戦ごとの単価もクライアントによって高い時もあり、なかなか稼げる。その内容は、VIPの護衛、軍事作戦上の部隊の援護、兵站など多岐にわたる。

気づけば実績最高ランクのダイヤモンドになっていた。

メールの続きに目を通す。


【今回、ダイヤモンドの方々に特別なクライアントからのオファーが届いております。

複数回に及ぶミッションとなりますが、一ミッションごとに高額の報酬が支払われます。

オファーを受ける方はお手数ですが、(日時)にてお近くの国際空港のロビーにて待機するようよろしくお願い申し上げます。

運営元本社にてクライアントとの直接のブリーフィングにてオファーの詳細、報酬を決定致します。

また、旅客機及び、案内役はこちらで手配します。


※注意事項


①サービス登録時の本人確認書類が必要になります。ご持参ください。

②案内役にお顔がわかるよう、なるべくサービス登録時のお顔で空港までお越しください。

③本人確認書類が現在手元にない場合、また、お顔が登録時から変化している場合は、あなたを捜索しているスーツの胸元のポケットに当社のロゴ付き名札を挟んだ案内役に直接詳細をご説明ください。


(まずい…前の部隊にいた人に代わりに登録してもらったのバレる‥。)


ウーバー傭兵での登録代行は規約違反であり、最悪の場合、アカウント停止処分となる。


(これは案内係に頼み込んでワンチャン狙うしかない…)


やらずに後悔するより、やって後悔した方がいいと考え、彼は出発の準備を始めた。

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