保護、またの名を監禁 3
「……もう良いです、なんだか私だけで一人相撲してるみたい」
ため息を吐きながらリヒト様のシャツを締めようと手を伸ばし、ボタンを1つ締めた。
「……キラ」
そのまま全てのボタンをしめるつもりだった私の手は、リヒト様が私の両手首を掴むことによって防がれる。
「え? あ、掛け間違えました。失礼しま……」
「君は、記憶上で比較が出来るほど、他の男の肉体を見たことがあるのか?」
予想外の質問に、つい沈黙してしまっての3秒後。私の体は後ろに押されるようにして倒れ、後頭部がソファーの肘掛けに当たった。痛みに耐えていると、私の上に覆い被さるようにして顔を近づけてくるリヒト様。
あ、この展開はこの屋敷に連れて来られた日にもありましたよね。
……なんて、悠長に考えている場合ではない。
いつもは綺麗な七三分けにセットされている髪は、夜分の為か俯くとはらりと垂れ彼の表情を隠す。それでもその隙間から見える髪と同じ色の瞳は、鋭くこちらを見据えていた。
……これは、所謂男女関係の事を指しているのだろうか? それとも、生物学的な話をされているのだろうか?
リヒト様の場合、後者の可能性が高そうだが……この艶のある雰囲気と会話の流れ的には明らかに前者である。
「……義弟ならいましたけど」
分からないので無難な選択肢を取ったつもりだった。
誰かと男女関係になったことは無いが、Y染色体を持つ人間の体は見たことがある。義理ではあるが一応家族なので何度かは……という意味だ。
「無駄な回答は不要だ。それを言うなら私だって姉がいる。キラがその義弟の体を穴が開くほど見つめたと言うなら話は別だが」
まさかそんな訳はない。そんな趣味がある人間だと思われては困るので、高速で首を横に振る。脳震盪を起こしそう!
「ならば、やはり先程の回答は不要だな。早く私の質問に答えろ」
リヒト様の顔が近づいてきて、私の首元に埋められる。眼鏡がどこかに当たったのか、耳元で小さくカチャッと金属音がして。そして何かが首筋を辿る感覚……それがリヒト様の唇だと気がついて顔から火が出そうになった。
「や、めてください!」
「質問に答えれば辞める」
言葉を発すると、首筋に温かい吐息が掛かり、身体中にゾワゾワとした痺れが走る。
よく分からないけどその感覚がとても甘く感じてしまって、まるでリヒト様と恋仲になってしまったような錯覚を起こす。
しかし首筋を噛まれたような感覚がして我に返り、必死に叫んだ。
「ありません! こういう事した事ないから、比較できるほど男性の体を見たことないですッ、ごめんなさい!!」
ちょっとリヒト様に仕返ししたかっただけなんです! 私ばっかり恥ずかしい思いするから、同じ気持ちになってもらおうと思って……と正直に、涙目で告白する。
……命を助けてもらった恩人に、こんな事してはならないという事ですね。よく分かりました。おかげで心臓が暴れ狂って、もう緊急停止しそうです!
「……ならば、君の肌にこうして触れた事のある男は居ないという事だな」
「だって私、今まで勉強ばかりで」
友達すら少なかったのに、彼氏なんてもってのほかだ!
そこまで説明した時、トントンとドアをノックする音がした。
「失礼いたします。聖女様、今日の昼間書いていただいていた文章ですが、よく見ると間違いがありました。早めが良いかと思って、持って……」
ドアを開けた瞬間固まるマリーちゃんの姿。
きっと彼女の視界に映っているのは、シャツの前を広げ乱れた状態で私に迫っているように見えるリヒト様の姿……だろう。
うん。絶対に勘違いを生む光景だよね。
「マリーちゃーんッ!?」
マリーちゃんはショックを受けたのかそのまま後ろに倒れてしまった。バタンと大きな音が鳴り……後頭部が心配だ!
急いで駆け寄ろうとするが、リヒト様に防がれる。
「キラ、返事がまだだ。かつて君に触れた男が居たのか?」
「もう、居ませんよ! 居ません!! それよりリヒト様は私の上から退いてくださいッ」
「おや、何を騒いでおいでですかな。マリーはこんな所で寝て……? リヒトさ――……ゴホンッ! 私はどうやらお邪魔したようですな」
あまりにも騒がしくしていたせいか、トーマスさんがひょっこり現れて……すぐに姿を消した。
いやいやいや、絶対に今勘違いされたよね? されたよね!?
っていうか、人間盗聴器はどこからどこまで聞いていたのだろう。
「トーマスさーんッ! お願い、一生のお願いだから助けてぇー!?」
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