保護、またの名を監禁 2
「それにしても。ここまで聖女と普通の人間と差が無いとなると……異世界に住んでいるのも人間と言わざるをえない」
だから初めからそう言っているではないですか。
喉元まで出かかったその言葉をゴクンと丸呑みする。
ここに来てはや二週間。毎晩私の部屋でこの行為は繰り返された……そう、身体検査である。
リヒト様は昼間はどこかに出掛けているらしく屋敷を空けているようだが、夜には帰ってきて私の部屋へと欠かさずやって来る。
そして聖女である私が本当に人間なのかというところから疑っていたリヒト様は、二週間かけての観察の結果私が人間であると認めた。
……やっと認めた。
大変失礼な話である。
……あ。勿論、本当に健全な身体検査ですよ?
リヒト様は私が全力で嫌がると辞めてくれる人で、そこを研究心の為に押し通したりはしない所は安心しています。
「唯一気になるのが排尿回数の少なさだが、まぁ食事量も少ないから当然か」
「ちょっ……そんな事まで記録しないで!?」
結局、行動範囲として設定された範囲外に出る時は、使用人の誰かがついて来ることになっていた。そのためお手洗いに行く時ですら、わざわざ誰かに付いてきてもらっているのだが……まさか回数をカウントされているだなんて!
「……恥ずかしいのでやめてください」
「キラがそう言うから、服を全て脱がすのは辞めたじゃないか。……分かった、今日からは回数カウント系は全て辞める」
本気で泣きそうな顔で睨むと、やはりリヒト様はお手洗いの回数を数えるのは中止してくれた。しかしその後も黙ったままの私を見てオロオロとし始める。
「すまなかった。まさかそこまで嫌がるとは思わなくて」
嫌に決まっているでしょう!
そんな事を記録されている事自体が恥ずかしいのに、しかもその記録を好きな人が見ているのである。屈辱……とまでは言わないが、とんでもない辱めを受けている気持ちにはなる。
私はペットでも実験マウスでも育児される赤ちゃんでもないの!
……この人には一度、私が体感してきた辱めを自らの身で体験してもらわないと理解して貰えないのかもしれない。
私はそう考えて強硬手段に出ることにした。
私は黙ったままソファーから立ち上がり、リヒト様が座る対面するソファーの方まで行って隣に腰掛ける。
そして彼が着ているシャツの胸元に手を伸ばした。
「キラ?」
不思議そうな顔をしているが、私はやると決めたのだ。覚悟を決めてシャツのボタンに指をかける。
「……リヒト様が自らの肉体と私の肉体を比較せずとも、私が比較したって良いですよね? リヒト様が私を脱がさなくとも、私が確認してあげますから」
上から7個ボタンを外し、シャツの前を広げた。現れたのは、貴族らしく日焼けしていない肌。それでも細すぎず、贅肉が乗っているというわけでもない、綺麗な体。それにそっと手を這わせる。
間違いなく人間の肌は、見た目上も触感上も、私となんら変わりの無い温かさを纏っていた。
まるで悪女のような振る舞いに、自分でやっておいて自分で驚いてしまう。それでも何でもない風を装って、にっこり微笑んだ。
「……ほら、リヒト様。見られると恥ずかしいですよね?」
ここで飛び上がる程恥ずかしんでもらって、私に謝罪してもらおうという作戦だ。我ながら良い考えで上手くいくだろうと思っていたのに……現実は違った。
「いや? 別にキラであれば構わないが……何なら下も脱いだ方が良いか?」
「――ッ!?」
平然とそう言って自身のベルトに手をかけるので、私の方が飛び上がるほど恥ずかしくなって、慌ててその手を掴んで止める。
「……脱がないと、いくらキラであっても分からないのではないか?」
大きく息を吸って、吐いて……心を落ち着けてから苦笑いで再度リヒト様の表情を確認した。平然としている。
……揶揄われているのかと思ったが、この人……本気で言っている。信じられない……。
「いや待て。そもそも人間の体とは男女差があり、男女である我々が見比べても違って当たり前だから意味が無いな」
今更なお言葉ではあるが、本当にその通りだ。しかし、そこを許容しての観察では無かったのか?
「今更そこに辿り着くんですか?」
なんだかどっと疲れが押し寄せてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます