保護、またの名を監禁 1

 そうして私の保護、またの名を監禁……生活が始まった。


 ちょっと大袈裟すぎませんか? と言いたくなるが、私の身の安全の為に必要だと説かれて仕舞えば拒否出来ない。きっと日本と同じような防犯意識でいてはいけないのだろう。

 


「キラは、自分が聖女として以外も狙われる危険性があると理解した方がいい。……本当に保護したのが私で良かった。もし他の男に連れて行かれていたら……」


 

 よく分からないが、リヒト様曰く聖女として以外にも狙われる理由があるようだ。


 ……ああそうか。伯爵であるリヒト様のお屋敷に滞在している以上、高貴な人間と勘違いされ誘拐されたりするのかもしれない。


 私は一文無しなのに。しかも所持品は化学の参考書だけ……待て?

 この参考書は聖典であるという事になっているのだから、もしかして物凄く高値で売れるのかも! このクルークハイト伯爵領の人々は、王宮の離宮のように聖典に書いてあるという万物の理を求めて長蛇の列をなしたりはしないので、すっかり忘れていた。



 他にも暗殺者が来るとか、いきなり敵軍が攻めてくるとか……この世界の常識が欠如しているのでよく分からないが。とにかく私が聖女である以上……常に何かしら身の危険があるのだと、自らを納得させ大人しく監禁される事にした。



 そして監禁生活なのだから大層窮屈な生活になるかと思ったが以外とそうでも無かった。元々勉強ばかりで机に向かっている事が多かった私は、別に殆ど部屋に引きこもりでも大した苦痛は感じなかったのだ。


 それよりも。


 結局リヒト様が色々と手を回してくれ、1日のうち1時間だけマリーちゃんが私に文字を教えに部屋まで来てくれる事になった。


 こちらから出向けないのであれば、仕事上の居場所が固定されているであろうマリーちゃんでなくても良かったのだけど……教え方も上手だし、なんせ可愛いので見ていて癒される。

 特にこの引きこもり生活では、マリーちゃん以外に接する機会のある人間は……変人だったり、人間盗聴器だったりしたので可愛い癒しは貴重だった。

 


 そしてその他の時間は全て自主学習に充てた。

 おかげでここ数日で沢山の文字を覚え、ごく簡単な日常的な文章であれば読めるようになってきたのは大きな前進だと思う。


 勉学が制限されていないクルークハイト領に匿ってもらえて本当に幸運だった。

 ……いや、そうでなければ今頃贄として火に焚べられているので、生きてすら無いけど。

 



 正直、日本で受験勉強をしている時より今の方が楽しいとさえ感じる時もある。


 受験が目標になってしまっていたあの頃とは違って、実生活に直結する……知りたいと思ったことを学べる楽しさ。それを私は、実に小学生以来……久しぶりに見つける事ができたのだ。


 『勉学が悪とされる世界』で、というのがなんとも皮肉な話である。

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