覚悟を持って、何もしない
食事の回数や外の気配からすると、おそらく牢に閉じ込められてから3日程経っただろうか。
初めの手紙以降は特にマリーちゃんからの接触は無かった。それでも時々看守のおじさんと……わざと片言風にこの国の言葉で話しているのであろうマリーちゃんの声が聞こえてくる。
マリーちゃんが近くにいると分かるだけで心の持ちようは全然違った。間違っても自ら命を断つような選択はしてはならないと思えたから。
この3日間……私だって、今後どうすればいいか色々と考えた。
私の体を対価として差し出せば、少しぐらい看守のおじさんが幅を利かせてくれないかな……とか
あんな王子に焼き殺されるくらいなら、王子を焼き殺した方がマシだよね……とか
パンが乗ってくる金属製の皿をどうにか加工して脱出できないかな……とか
考えたけどどれも上手くできそうに無かったし、マリーちゃんがここにいるということは必ずリヒト様が動いている。私が下手に動くとかえって邪魔をしてしまうかもしれない。
私は覚悟を持って『何も行動しない』……を実行してきた。
「異端聖女、外に出ろ」
看守のおじさんではない、王宮の兵士たちが牢までやってきて、牢の鍵を開けた。
……ついにこの瞬間が来てしまったのか。
諦めの気持ち半分、今からの助けを期待する気持ち半分。
最悪、リヒト様達が無事ならそれでいい。リヒト様達に危害を加えぬよう呪いのような「神のお告げ」を吐き捨ててやろうと心に決めて立ち上がり、牢を出る。
外に出るまでに他の牢の前を通るので、最後にマリーちゃんを一目見たいと思った。わざとふらついてゆっくり歩いているようにして彼女を探す。
ピンクの髪の毛のマリーちゃんは、目立つのですぐに発見できた。クルークハイト伯爵領での使用人の姿とは全く異なる、貧しい身なりの姿。それでも。
……マリーちゃんは笑顔をこちらに向けた。
まるで私が助かると確信しているかのようなその表情に、つい歩みを止めてしまう。
「止まるな、さっさと歩け」
兵に後ろから背中を突かれる。その様子にマリーちゃんは少しムッとしたような表情を見せたが……決して悲観的な表情はしなかった。
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