デート? ううん、これは視察! 2
そうしてリヒト様に抱っこされた状態で馬車まで運ばれ、そのまま屋敷を出た。
馬車に乗る頃にはドキドキしすぎて過呼吸になりそうだったけど、そこは頑張って隠し通しました。
馬車が走り出し一息つくと、そういえば珍しく腰近くまである髪を上げてみたにも関わらず、特にそこに関しての感想が無かった事を思い出した。
特にコメントが無いと逆に気になってしまうのが人間という生き物である。
「今日は張り切って準備したんです! ほら、髪だってこんな感じに纏めてみました。」
と言って見せてみたのだが。リヒト様は表情一つ変えない。
「よく似合っている。しかしそれだと首を虫に刺されはしないか? 野外になると伝えておけば良かったか……タオルでも首に巻けば少々カバーできるだろうか」
うーん……褒められたけど全く褒められた気がしない!
ここは私から「リヒト様は今日も格好いいですね」なんて容姿に関する話題を展開するべきだろうか。
実際残暑の残る気候でもきっちりジャケットまで着込んで涼しい顔をしているリヒト様は格好良いと思う。こういうスマートで知的なタイプは私の好みど真ん中なのだ。
いや、中身はかなり変な人だけど。
「それで、今日はどこへ連れて行ってくれるのですか?」
首タオルは少々格好悪いから話を戻されたく無いし、いきなりリヒト様の外見を褒め始めるのも違うだろうと思って、話題を変えて誤魔化す事にした。
これで話が続かなければ……そうね、髪を結うのに使ったヘアピンの本数とかそっち方面に話題を展開していこう。
「今日はキラに見てほしいものがある。クルークハイト伯爵領が経営している学びの場なのだが」
どうやら領地内の教育についてアドバイスが欲しいらしく、領民達……特に子供の学びの場について私の意見が欲しいとのことだった。
「あー……学校ですね?」
デート先としては……まぁ思うところが無いわけでは無いが、勝手にデートの気分になっているのは私だけなので、行き先については良しとしよう。外出できる事に意義があるのだし、この国の教育についても興味がある。
勉学が悪とされる世界なので、きっとリヒト様はこの辺を手探りでやっているのだろう。彼の為に自らの知識を使えるのなら本望だ。
「ガッコウ?」
「私がいた世界の学舎の事です。年齢ごとに組分けをして、その組ごとに適した授業を行って勉学に励む場所を学校と呼んでいました」
ほんの数ヶ月前までは私も高校に通っていたはずなのに、なんだか遠い昔のことのように思えた。私はそのくらいこの世界に馴染んでしまったのだろうか。
いや、この世界というか……この世界では悪辣の統治者が治めるとされる異端の地に馴染んだというべきか。
「学校か……そうだな。年齢や習得度に分けて勉学に励むのは良い案かもしれない。やはりキラに相談すると良い方向に進む」
そう言ったリヒト様の表情が本当に嬉しそうで。……私まで嬉しくなってしまった。
この世界に召喚された当初は、何故私がこんな目に遭わなければならないのかと憂いた日もあった。
でも……私が持ち込んだ日本の知識で、リヒト様がこんなに嬉しそうにしてくれる。
たったそれだけで……この世界に召喚されて良かったと思った。
例え異端聖女であっても、失敗作だと言われようとも。
好きな人に喜んでもらえる。それだけで……。
「喜んでもらえて良かった」
私のこの言葉は心からの本心だった。
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