第13話チートな彼のスピード準備

デートから幾日か過ぎた日の事。私はいつものように、屋敷に送られてくる依頼書や面接の応募書類の整理をしていました。

封筒の中身と言えば、主にサイガ様宛の依頼、もしくはウチの娘と婚約しないかという迷惑な手紙かのどちらかなのですが、ある1つの手紙だけ、私宛てに届いたものでした。


「これは……」

「どうした?」

「母からの手紙です。」


差出人は、私の母。半年ほど前にも私を心配する手紙が届き、返信した覚えがあります。今回の手紙もそのようなものでしょうか。


「おお!それはよかったな、整理は良いから先に読んでおけ。」

「はい、ありがとうございます。」


封を開けて中身を取り出すと、中には1枚の手紙が入っていました。


『ロロテナへ 返信ありがとう。ロロテナが元気にしているのがわかって、ミミレナも安心していましたよ。

 そういえば先日、珍しく外からいらっしゃった方がいました。エルレイン種の髪の長いお姉さんで、よくわからないけど色んなお話をされていました。サイガ様がこの村にいた事を知ると、すごく喜ばれていましたよ。なんだってそのお姉さんの運命の人がサイガ様らしいと聞きました。

 口うるさい事を言いますが、ロロテナも良いお相手を見つけたら、逃げられないようにしっかり捕まえておくようにね。

 それから、そのお姉さんに連れられて、お母さんとお父さんとミミレナで、都会に旅行に行く事になりました。樹の月の中旬に向かいます。もしよければ、元気な姿を見せてちょうだいね。

セセルアより』


一度通して読んだ後、もう一度読み直します。文章自体はかなり短いのに、頭を悩ませる内容がいくつもありました。

髪の長いお姉さんと言われて想像できるのは、サイガ様が以前救った人の誰かしかいません。しかもその人がサイガ様のことを運命の人だと思いこんでいて、それでいてその人が家族を連れてこちらへやってくる……そして私は今姿が変わっていて、ぱっと見他人が息子の名を騙っているようにしか見えない……

もしかして俗に言うピンチというやつなのではないかと思い至りました。


「……どうしたロロテナ、難しい顔をして。」

「あ、サイガ様……その、ですね。家族とエルレインの女性がこちらへやってくるそうです……樹の月の中旬に。」

「な、樹の月の中旬って、今じゃないか!」


私の村は辺境ですから、ここに手紙が届くまでに日がかかります。逆に、先に手紙が届いたのを運が良かったと言うべきでしょう。


「はい……どうしようかと……」

「どうするも何も……出迎えるしかないだろう。とりあえず緊急会議だ!幸い討伐依頼は期限に余裕があるし、対処法を考えるぞ!」

「は、はい!」







普段は使わない広間を掃除し、10人ほどが座れる大机を用意します。サイガ様が高速で作られる調度品を配置し、豪華で、それでいてうるさくない部屋に仕上げて行きます。

そこまでしなくてもいいと言いましたが、サイガ様は、ロロテナの家族にロロテナがいいところで働いているという事を伝えたい、と返されてしまいました。


「それにしても髪の長いエルレイン種って……誰なんだよ。片手じゃ数えられんくらい助けたぞ。」


サイガ様は一緒に来るらしい女性の事も気になるようです。サイガ様を運命の人だと言いふらすなんて、サイガ様にとって損にしかなりません。


「手紙には『色んなお話をされていました』とありましたね。心当たりはありますか?」

「色んなお話?吟遊詩人か宗教家あたりか?………いや、全くわからんな。」


サイガ様は考えるように一度、椅子を組み立てる手を止めましたが、すぐに再開して数十秒後、出来上がった椅子を私に運ぶよう指示しました。


「ロロテナの家族にはどう説明するものか。」

「そうですね……流石にすんなり信じてもらえるとは思えませんし……」

「こういう時はやっぱり素直に言った方がいいだろうなぁ。」


そう言うサイガ様は、無理やり自分を納得させているようでした。





急いで準備をした次の日、サイガ様が納品用のイドゥーラスコートを制作している際にふと呟かれました。


「来た。」

「え?」

「来たぞ、お前の家族が。」


そうサイガ様が言った途端、ドアノッカーの音が耳に届きました。


「よし、俺が迎えに行くからロロテナは昨日掃除した広間にいてくれ。」

「え、わ、わかりました。」


私がそう返すと、サイガ様は広間から去って行きました。私は指示された通り広間に向かいます。

先に軽い説明をしてから会ったほうが言いと言われれば従うほかありません。

呑気な家族なので、怒って縁を切られるような事はないと思いますが……いえ、家族よりも謎の女性の方が心配ですね。サイガ様を怒らせるような事がないといいのですが……

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