第11話チートな彼のプレゼント放題
「ふう、うまかったな。」
料理を食べ終わり、サイガ様が満足そうな顔をされます。
「ええ、とてもおいしかったです。」
お会計を済ませると私達はお店を出ます。目的は服屋です。今ある何着かはサイガ様に作って頂いた簡素なもの、今日の服は昨日買ったものですが、せっかくならサイガ様の好みのお洋服に身を包みたいのです。
「次は服屋だな。とりあえず、色々見て回るか。」
サイガ様が先導し、二人で服屋に入ります。店内には様々な種類の服が並んでいます。服のデザインも、私が今まで見たことの無いものから、私がよく着るようなものまで、本当に多種多様です。
「なあロロテナ、気になる服はないか?」
「え?あ、いえ……私は服についてはよくわからないので、どうせならサイガ様に選んでいただきたいな、と……」
「……いいのか?俺に任せたら、その、俺の趣味全開の服ばかりになってしまうが。」
「サイガ様が選んでくれるのであれば、なんでも嬉しいです。」
「そうか。じゃあ……」
そう言ってサイガ様は店内を回り始めました。何度か商品を手にとって、私の体に当てます。
時折「いいな……」と小さく呟き、私の持った買い物カゴに服を入れ、また別の服に手を伸ばされるのを繰り返しました。
「あの、試着はしなくてもいいのですか?」
「ん?ああ、ええと……じゃあ、試着するか。」
サイガ様にいくつか商品を手渡され、試着室へと案内されます。
私は試着室にこもり、商品を広げてみます。あたたかそうな丈の長いセーターに、黒いズボン。
さっきサイガ様がやっていたように、セーターを体に当ててみると、チャラ、と音がしました。
なにか落としたかと床を見ると、小さな宝石のついたネックレスが転がっています。
これも、付けるべきですかね?
私はそのネックレスを拾い上げて、鏡の近くの棚に置きました。服屋にも宝飾品は売っているのですね。初めて知りました。
サイガ様に選んでもらった服に着替えます。引っ掛ければすぐにほつれてしまいそうなセーターに、足にぴったり張り付いて、冒険には向かないズボン。外で動くことが多いのでそう感じてしまいますが、品質が良く、おしゃれな方が着るようなものなのは確かです。
棚に置いたネックレスを付けると、なんだか少し背伸びしたような私の姿が鏡に映ります。
「サイガ様、どうでしょうか?」
試着室のカーテンを開けてサイガ様に感想を尋ねます。
「す、すごい似合ってる。その……俺の理想そのものって感じで、夢なんじゃないかって思えてきた……」
「それは褒めすぎですよ。でも、ありがとうございます。」
サイガ様は普段は見せないような心の底から滲むような笑みを見せます。その『勇者』じゃない、普通の人としてのサイガ様が見えて、私まで嬉しくなってしまいました。
「ロロテナ、どうせだからそれを着て帰らないか?」
「はい、サイガ様がよろしければ。」
私達は服屋の店員さんに言って服を買いました。会計をする時に、買い物カゴの中身が試着前より増えていたのが気になりましたが、「俺がプレゼントするんだ」と押し切られてしまいました。もちろん代金は全てサイガ様持ちです。
この程度でサイガ様の資産に影響が出るはずはありませんが、なんだか複雑な気分です。
サイガ様は紙袋を何個も軽々と下げて、上機嫌なご様子で歩いていきます。
「サイガ様、私が持ちますよ。」
「いや、大丈夫だ。」
そう言ってサイガ様は荷物を渡してはくれません。
もう体が大きくなって、重たい荷物も運べるようになりましたし、力があるとはいえ、サイガ様に荷物をもたせ続けるのも良くないと思ったのですが、断られてしまいました。
サイガ様からすればまだまだということでしょうか。ううん、やはり体を鍛えるべきですかね?
「あの……次はどこへ向かわれるのですか?」
「今日行く予定だったのは家具屋と服屋だけだが……ロロテナは行きたい所とかないのか?その、せっかくのデート……なんだから。」
「じゃあ、雑貨屋さんに行ってもいいですか?」
「いいぞ、行くか。」
せっかくのデートなんですから、思い出の品が何か欲しいです。
「どんなのが欲しいんだ?」
「そうですね……」
できるだけ机の上に置けて、お揃いの品がいいな、と思うのですが、お揃いの品なんて買ったら恋人に見られてしまうでしょうか?いえ、もう手遅れかもしれませんが……
「えっと、やっぱり長く使えるもの、とかがいいですかね?」
「長く使えるものか。」
私がそう言うと、サイガ様は真剣な顔で何かを考え始めます。
買えなくても、サイガ様と一緒に選ぶ事が嬉しいと、言ったほうがいいのでしょうか?
しばらく歩いていると、ショーウィンドウにぬいぐるみと、かわいらしいティーカップが飾られているお店を見つけました。
「かわいい……」
「ここ、入るか。」
すぐさまドアを開けたサイガ様に続いて、私も店に入ります。
店内のディスプレイには所狭しと小物たちが並べられています。どれもが窓の外から差す光を受けてきらきらと輝いていて、私の目を惹き付けました。
棚の高い所では、ぬいぐるみが敷物を広げてピクニックをしています。
私達は端からゆっくりと陳列品を見て回ります。
「あ、これ……」
そう言葉が口から出たサイガ様が手に取ったのは、ふわふわの羽根と木彫りの小さな玉のついた髪留めでした。
「なんか、ロロテナっぽいな。」
私っぽい髪留めって何なんでしょうか?それを言うなら、こちらの蒼い石つきの銀のブレスレットだって、サイガ様っぽいと思いますが。
サイガ様は手に取った髪留めを私の頭に当てて、「うん、似合うな。」とうなずきました。
「サイガ様にはこちらが似合いますよ。」
私が手に取ったのは、先ほど私がサイガ様っぽいと感じたブレスレットです。普段から大量の効果を付与されたアクセサリーばかり付けていますから、こんな市販のブレスレット好んで付けるはずがないのですが………
「じゃあ、それも買うか。」
サイガ様はそう言って私の手の中のブレスレットを取り上げようとしました。
「だめです、私が買います。」
ひょい、とその手を躱すと、サイガ様は驚いたような表情をされました。今日は私のために色んなことをやっていただきましたから、その御礼も兼ねて、少しでもサイガ様に喜んでいただきたいのです。
「プレゼント、ということでどうですか?」
「……じゃあ、交換にしよう。この髪留めは俺が買うから。」
プレゼント交換、ですか。何気なく選んだものですが、特別感を感じて、嬉しくなりました。
「ふふ、わかりました、ではお会計してきますね。」
きらきらと輝くブレスレットを小さなかごに入れて、店員さんに手渡します。
私が会計を済ませ、ラッピングして頂いた商品を受け取ると、サイガ様は店内を見て回っていました。その手元には焼印の付けられた木箱があります。
「サイガ様、その箱はなんですか?」
「ん、今は秘密。俺も会計してくる。」
「はい。」
サイガ様が木箱と髪飾りの会計を済ませ、また一つ紙袋を増やします。流石に持ちづらいと思うのですが……
「サイガ様、私も持ちますよ。」
「大丈夫だ、このくらい平気だ。」
「あの、」
私はふと思いついたことを言うため、サイガ様の耳に口を近づけます。
「荷物、分けないと手をつなげませんよ?」
まだ店内にいるので、店員さんに聞かれないように小声でそうっと囁くと、サイガ様の体が硬直したのがわかりました。
「わ、わかった……」
サイガ様は耳元を赤くしながら軽そうな紙袋を私にを持たせてくれます。よかった、効果はあったようです。
まあ、今すぐ繋ぐわけではないのですが、そこは気づかないでいて欲しいものです。
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