第7話チートな彼のドキドキ告白

 私達は路地裏から出て、魔道具が散乱した商業区の大通りを歩いていきます。今にも片付けたい所ですが、急激に体が変化したせいなのか、色んなところが痛いです。転がる魔道具をちらちらと見ながら戦闘で崩壊した通りを過ぎ去りました。

 人々が避難した中央区を通ると、サイガ様の姿を認めた避難者が何人も近づいてきます。がやがやと騒ぎ立てながら質問の波を浴びせる人々をサイガ様はなだめます。


「あのモンスターは俺が討伐した!コアになるだろう呪具や魔法具は回収したから、もうモンスターが出る事は無いだろう。俺は今から犯人探しに当たる。まだ商業区には魔道具が散乱している。どれが誰の魔道具かは流石の俺もわからん。各自自分の魔道具を回収し、商業区の清掃と修繕をしてくれ!」


 サイガ様がそう告げると人々はわっと盛り上がり、何やら偉そうな方々が話し始めます。私達は盛り上がるその場からこっそりと抜け出して、屋敷へと戻りました。


「ロロテナ、その、服が破れていただろう。着替えたらどうだ。」


 サイズも同じくらいなんだし、とサイガ様が付け加えます。確かに、服が破れたままでは普通に過ごす事もままなりません。

 私はお言葉に甘えてサイガ様の服を借りる事にしました。サイガ様が大きなクローゼットの中からシャツやズボンを引っ掴み、私へと投げ渡します。


「ああ、下着も必要だよな……今から新品のを作るから少し待っててくれ。」

「え?あ、ありがとうございます。」


 収納魔術で布と裁縫道具を机の上に取り出したサイガ様は、おもむろに布を裁断し始めます。人間離れした速度でサイガ様は布を縫い合わせると、あっという間に私のための下着を完成させました。


「これでいいか?」

「はい、十分です。では、着替えてきますね。」


 私は自室に戻り、サイガ様から頂いた服に着替えました。下着はぴったりサイズですが、シャツとズボンは少し大きい気がします。鍛えられたサイガ様の体と貧相な私の体ではこうなるのもわかります。


「サイガ様、どうでしょうか。」


 着替えを終えてすぐに私はサイガ様の元へ戻りました。サイガ様は私の姿を見ると、顔を真っ赤にして目を逸らします。なんだか私の体が大きくなってから、サイガ様の様子がおかしいです。


「その、ロロテナは……その服で大丈夫か?」

「はい、サイガ様のお洋服を着せていただくなんて、なんだか新鮮です。」

「っぐ……いや、そういうわけじゃ、その、丈の長さとかその、肌がちくちくしたりしないか?」

「いえ、問題ありません。」

「そうか、じゃあその……今回の騒動の犯人なんだが、もう検討は付いている。あの場に召喚素材が落ちていたからな。魔力の痕跡を辿ればすぐに見つかる。」


 サイガ様はそこで話を切り、一度深呼吸をしてから再び口を開きます。


「だから、そっちは簡単に解決しそうなんだ。それよりロロテナの姿がだな……」


 目を伏せたサイガ様がちら、とこちらを見て、またすぐに目を逸らします。確かに、トレジャースタチューは倒したのに私の姿は大きくなったままです。あの状況でしたから、どの魔道具、もしくは呪具のせいでこうなってしまったのか、私にはわかりません。


「もしかして、治すのが困難な呪いなのでしょうか。」

「いや、そんな事はない!……ない、ないんだが……」


 いつもは物事をはっきり仰る事が多いサイガ様ですが、今日はなぜだか煮え切らない様子です。何か私に問題があるのでしょうか。


「えっと、その……」

「はい。」

「お前の今の姿がな……その、綺麗というか、その……」


 サイガ様はしばらく口をもごもごと動かした後で、意を決したようにこちらを向いて言いました。



「好み真ん中ドストライクで見るだけで胸がどきどきするんだ!!」



「……へ?」


 通りで様子がおかしかった訳です。私も幼い頃に学校の上級生に優しくされてドキドキした経験がありますから、なんとなくその気持ちはわかります。


「つまり、サイガ様はこの姿が好みということでよろしいのでしょうか?」

「あ、う、あ……その、通りだ……」


 サイガ様は相変わらず目を泳がせながら口ごもってしまいました。私はその反応がなんだか可愛らしく思えてきて、くすりと微笑みました。


「サイガ様がこの姿を気に入っていただけるのなら、私はずっとこの姿のままでも構いませんよ。」

「そ、そうなのか!?いや、そうは言ってもだな、ロロテナが元の姿に戻らないと、あの仲間は何処にやったんだとか、アイツは仲間の呪いすら解けないのかとか、言われる、から……」

「私がその意見を跳ね返します!」


 私は普段は出さない大きな声で宣言しました。


「サイガ様がこの姿を気に入ってくださっているのなら、私はこの姿を手放したくありません。」

「ロロテナ……」

「サイガ様、私をあなたの好きな私で居させてください。お願いします。」


 私が頭を下げると、サイガ様はあたふたと慌て始めました。そしてしばらく考え込むと、ゆっくりと口を開いて、こう言いました。


「わかった。ロロテナの望むようにしよう。ただ何かあった時はその限りではないことを覚えておいてくれ。……俺も、ロロテナがこの姿でいれるよう、サポートはするがな。」

「ありがとうございます……!」

「いや、そのなんだ、その姿がずっと見れるのは俺にとっても得だからな。」


 サイガ様は言い終えてから自分の発言に恥ずかしくなったのか、真っ赤な顔で腕を組んだまま、口を噤みます。

 今日はかわいらしいサイガ様のお姿がたくさん見れて嬉しいです。

 私はもっとサイガ様を知りたくなってしまいました。


「ね、サイガ様。商業区の復興が済んだら、一緒にお買い物に行きませんか?」

「ん?まあ確かにずっとその姿なら、それに合った服とか家具は必要だよな。」

「はい。それに、サイガ様がしたいと言っていたデートをするチャンスだと思いまして……」

「え、デート?俺がそんな事を言っていたのか?」


 サイガ様が驚いた様子で問いかけてきます。おや、覚えていないのでしょうか。お酒を一緒に飲んだ時だったので、それも仕方がない事なのかもしれません。


「はい、言ってましたよ。」


 私がそう答えるとサイガ様は頭を抱えて何かをぶつぶつと呟き始めます。そんな様子も新鮮で、私は思わず笑みが溢れてしまいました。


「私とのデートは嫌ですか?」

「嫌なわけが無い!お前みたいなイケメンとデートできるなんて願ったり叶ったりだ!!」

「私も、サイガ様とデートできるなんて、夢のようです。」


 私がそう答えると、サイガ様は恥ずかしそうに口をもごもごと動かしてから、体ごと明後日の方向を向いてしまいました。しかし、耳まで真っ赤になってしまっているので、照れ隠しにしか見えません。

 二人での買い出しはいつもしている事ですが、デートと名が付くだけでこうもわくわくしてしまうのが不思議です。

 デートではどんなことをするのでしょうか、サイガ様に楽しんでもらうために下調べをする時間も必要そうです。


「楽しみですね、サイガ様。」

「……ああ。」


 そっけない言葉でしたが、その声色はどこまでも優しくて、私は思わず微笑んでしまいました。

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