第2話チートな彼のスカウト構想
「【極氷撃】!【ピア・フルーレ】!」
サイガ様が放つ魔法がマデュラスパイダーの動きを封じ、突きがその体を崩れさせます。人を襲っていたマデュラスパイダーは一瞬にして砕けた氷塊になってしまいました。
襲われていた長髪のエルレイン種は怪我をしているようです。足を大きく切られ、血が出ている様は痛ましいですね。私はバッグから布や薬、水を取り出して急いで処置をしました。
残ったメレスパイダーを倒したサイガ様がこちらにやってくる頃には、応急処置も完了していました。後はサイガ様の作った薬を塗り、包帯を巻いて安静にしていれば2日程で痕もなく回復するでしょう。
「こちらは処置完了しましたよ、サイガ様。」
「ありがとうロロテナ。君は……大丈夫か?」
「え、あ……はい。ありがとうございます。助けてくださっただけではなく、怪我の手当まで……」
青年は頭を下げる。
ちら、とサイガ様の姿を見ると、今までとは違う反応なような気がします。なんというか、少し表情が柔らかいような……もしかしてこの方をギルドに迎え入れようとしているのでしょうか。
私はこの方のことを何も知らないですが、エルレイン種は魔法や弓といった遠距離攻撃に長けている種です。一人戦闘員が増えるだけで戦術は大きく広がるでしょう。
「大層な事はしていない。他にモンスターがいると危ないし、その足では歩くのも辛いだろう。俺が抱えるから何処に連れていけばいいか教えてくれ。」
エルレイン種の青年はエリックというらしく、ある人物に脅されて洞窟へと足を運んでいたと話しました。
指定された屋敷までエリックを連れて行くと、金髪のウォーカー種がドアから飛び出してきて彼の名を叫びます。そういえば使用人だと言っていましたね、この方が仕えている主人なのでしょうか。
「エリック!?どうしたのその怪我!一体誰に……」
「洞窟でマデュラスパイダーに襲われていたんだ。幸い、怪我はそこまで深くない。」
「あ、ありがとうございますわ。サイガ様にウチの使用人が助けられるなんて……あら、でもエリックはなぜ洞窟に?そんな仕事出されていたかしら?」
「それは、主人のお前が聞き出してやれ。お前に被害を与えないために、ってずっと隠してたみたいだからな。」
エリックを屋敷に帰し、私達は助けた報酬を受け取って家へと帰りました。
主人を危険な目に合わせたくないエリックの気持ちも、一人で背負い込んでほしくないあの主人の気持ちもわかります。『私はずっとお嬢様の側にいます』というエリックの言葉がやけに印象に残りました。
そういえば、サイガ様はエリックを見た時に他の人とは違う反応を見せていたのでした。私は彼を勧誘するのかと思っていましたが、あんな熱烈な告白を目の前で見せられては勧誘などできないというものです。
「サイガ様はエルレイン種の方を……って、ど、どうされました!?サイガ様!」
話を振りながら彼の顔を見ると、いつも得意げな顔をしているサイガ様の顔が酷く暗かったのです。
「……いや、大したことではないんだ。ただ、せっかく見つけたと、思ったんだけどなあ……」
もしや、先程のエルレイン種の事だろうか。様々な相手を蹴ってでも探したお眼鏡に叶う相手は、既に他人のものだったのですから、無理もありません。
そういう優秀な人物がフリーであることのほうが珍しいのです。
「サイガ様……」
「いや、運が悪かったんだ。まだ俺は諦めないぞ……いずれは俺のギルドを………!」
サイガ様は拳を握りしめ、気合を入れ直しています。サイガ様が頑張っているのです。私も精一杯サポートしなければなりません。
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