ミステリーのトリックは実現可能か

伽乃

第1話

『ボク』はどこにでもいる没個性に近いネット小説を投稿する一応小説家を自称したい大学生だ。授業とアルバイトの合間に小説を書いて投稿しているがオリジナリティに欠けるらしくあまり人気では無い。

そんな『ボク』の元にあるDMが届いた、『ボク』でも名前を知っているような大物作家Fからだった。それは泊まり込みのアルバイトの誘いで、その時期暇を持て余していた『ボク』は彼の誘いに乗ってそのアルバイトを受けることにした。

当日、なぜ誘ってくれたのかと問うと「理路整然とした文章を書けて、今日来る誰とも知り合いじゃなくて、作家仲間とも呼べるような人が居ないから」という少々残念な理由だったがこれを機にF先生と仲良くなりアドバイスを貰えたらという下心もあり気分を害することは無かった。

自宅の最寄り駅から車に2時間近く揺られて着いた某県のホテルにはF先生と仲の良いと有名なC先生を始めとする大物作家と呼ぶべき作家達がF先生を含めて10人居た。

現代ミステリーを書くF先生とC先生とU先生、現代ホラーを書くJ先生、明治大正時代を舞台にしたミステリーを書くM先生、民間伝承などをベースにしたミステリーを書くN先生、海外を舞台にした作品の多いどんなジャンルも書くI先生、ファンタジーとミステリーの融合した作品の多いL先生、ミステリーとホラーの合間のような独特の世界観が売りのO先生、サスペンスの申し子のA先生。

彼等の共通点は皆必ずミステリーを書いている(書いた)というだけだ。

『ボク』をここに連れてきたF先生によると『ボク』の仕事は記録係なのだそうだ。

F先生達はミステリーを書いている中で「このトリックは実行可能なのか」という疑問に至ったそうで外界から隔絶された場所でお互いのトリックを競い合おうという催しをすることになった、それの公平性を保つために誰とも知り合いでは無いし知り合いの知り合いなどという可能性も無い『ボク』がそれらを記録するということだった。これから移動する山荘には電話が無く、携帯電話もこのホテルの金庫に預けていくことになった。山荘にはひと月は過ごせるほどの備蓄等も済ませてあり、これから1週間出ることは叶わない。

F先生はほかの先生方の前で初期化したタブレットにメモアプリひとつをダウンロードしてそれを『ボク』に渡した。これから『ボク』はこのタブレットに全てを記録することになる。暗証番号は『ボク』だけが把握して、そこに先生方のトリック等が記録される。


山荘は本当に何かのミステリー小説に出てきそうな雰囲気のある建物だった。バスが戻って行った今、この山荘から出ても麓の街に辿り着くのは不可能に近いだろう。

改めてF先生が他の先生方にルールを説明し、『ボク』への不干渉を告げた。これ以降『ボク』はこの山荘に漂う空気のようなものになり、1週間の出来事を記録する。


その日の夜、F先生は『ボク』に伝えていた自身のトリックを使ったと思われる方法で殺された。

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