第4話 夜における禁忌と懐柔と捕食

「こら!今何時だと思ってるの!?早くお風呂入っちゃいなさい!」

「今入ろうと思ってたとこ―!やる気無くすから言わないで!」

「生意気なこと言わないの!明日も学校なんでしょ!」

「はいはい分かったってば!準備したら入るって……あ!」

「わー!どうしよう!明日調理実習で爪切ってこなくちゃいけないの、忘れてたー!」

「うう。今から自分の部屋で切ったら、『夜に爪切ったらお化けに攫われるよ!』とか『遅くまでダラダラしてるのが悪いのよ!』って、ママにがみがみ叱られるし……。」

「かといって早起きして切るのは面倒……。うう、どーしよー……。」

「そうだ!お風呂で切っちゃえばいいんだ!そしたら爪が柔らかくなって、音もあまり出ないし、第一お風呂の壁厚いからバレない!」

「そうと決まれば早速爪切り爪切り……。」


「……お風呂まで持ってきたはいいけれど、本当に、大丈夫かな?」

「とりあえず小指で試してみよう……。わ。音はそんなに変わんないや。」

「とりあえず爪は桶に溜めといて、後でこっそり流そ~。」

「……ママがやってくる気配、なし!ようし!バレないうちに終わらせちゃおう!」

「まずは左手の親指!」

「次に人差し指!」

「ちうだ」

「続いて中指!」

「ちうだい」

「ちょっと難しいけど薬指……って。」

「いらないの、ちうだい?もらたい。」

「……な!?(って危ない!口押さえてなきゃママにバレちゃう!)」

「これ、なじ?もういらない?ちうだい。」

「……。(爪切り始めてから妙に風呂の淵に湯気立っているなぁって思ってたけど……。よく見たら……よく見たら……!)」

「くれぬ?ぬならかなし。かなし。」

「!(し、白くてころんとしてるしつぶらな黒い目だしかわいい~!!)」

「うるる。ぐすす。」

「(わ、どうしよ。泣き始めちゃった……。しかもよく見たらだんだん姿が薄く……。)」

「(どうしよ。これお化けだよね?だったら食べさせちゃったらまずいかも?でも、かわいいし……。怖いお化けじゃなさそうだし。)」

「……まぁどうせ捨てるものだし、いっか。」

「うる……ぐす……ちう……。」

「いいよ、食べちゃって。」

「!?ぜぶか!」

「うん!ぜーんぶ!」

「やたやたやたやた。」

「うわ~。ちみちみ食べてる姿も可愛い~。」

「うままうまま。そよあり、うけれじゅぶぬ。」

「言っている内容全部はわからないけど、食レポまでしてる~。」

「もとくれ。もと。」

「あ、もっと欲しいの?じゃあ反対の手も切るね!利き手じゃないからちょっと時間かかるけど、待っててくれる?」

「ずとまつ。ずといしょ。うけれく。」

「ふふふ、やっぱりかわいい~。」


「もともと、まだほし。」

「とりあえず反対の手も切り終わっちゃったけど……。」

「くねぬ?だめ?うるる。」

「サイズは、さっきより少し大きくなった程度……。そりゃこんな小さい爪じゃまだまだ足りないよね……。」

「ぐすぐす。もともともともとちうだい。」

「そうだよね……。もっと欲しいよね……何か……そうだ!」

「髪の毛!丁度中途半端な長さだし、ちょっと短くしたいって思ってたし!」

「くれる!?くののくれる!」

「あ~。でもハサミがないや……。まいったな……。そろそろママがお風呂長いって怒鳴り込んでくるし、今から取りに行く時間はないや……。」

「やぱない?だめ?ぐすぐすぐすぐす。」

「あ~また泣いちゃう~。……そうだ!このサイズならこうやって淵に髪をかけて……!」

「うるぐすうるぐすちうだいちうだいちうだいよこせ」

「お待たせ!いくらでも食べていいよ!」

「!?くれる!やた!」

「あ~もう声がかわいい……って。」

「うままま。うまま。ふふ。いしょいしょ。」

「なんだろう……何だかほぐれていくような……。これ、すごく気持ちいい……!」

「むしゅむす。もすぐ、なかいれば、ずとしょ」

「ふふふ、頭の中に入りたいの?い~よ~。」

「やたやた!あがと!からだくれあがと!」

「(……このまま、頭の中に入って、代わりに全部面倒なことやってくれるんだったら、い~かな~。)」

「ずといしょ、ものもの、なとけ、いしょ。」

「そうだよ、ずっといっしょにいようね……。」


「こら!いつまでお風呂入ってるの!早く上がりなさい!」

「あ!ごめんなさい!すぐあがります!」

「今の時期はすぐ湯冷めしちゃうわよ!早く頭乾かして寝なさい!」

「はい。」

「あら、お風呂入ってからやけに素直じゃない……。ところで、爪切りどこに行ったか知らない?確か救急箱に入れといたはずなんだけど……。」

「これ?」

「そうよこれ……って、なんであなたが持ってるのよ?」

「たべさせてもらったから。」

「え?何聞き取れないけど……。まぁいいわ。ありがと。早く髪乾かして寝ちゃいなさい。」

「はい。おやすみなさい。」

「明日の調理実習のエプロン、そこに用意しといたからね。」

「ありがと。ちょうりじっしゅ。またいっぱいたべれる?そう。きらいなこからいちゃお?」

「普段はあんなに反抗的でうるさいのに、今日はなんか変ね。まぁ、そのぐらいの方が楽でいいけど。」

「……でも、そういえば。」

「あの子の髪、あんなに短かったかしら?」

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