第12話 一触即発

 ︎︎この前のお嬢様に手を出した二人組は、お嬢様がまだガムテープで固定されただけだったことと、お嬢様がとても優しかったので停学で済んだ。俺としては普通に退学にしたかったが、お嬢様がそう言うなら従うしか無かった。


 ︎︎助けたからお嬢様の毒舌が少しマシになるかと思ってたが、少し優しくなったのはあの一瞬だけだった。自分にあんなことしたやつを停学で許す優しさを持ってるのに護衛である俺には優しくないのか、護衛の仕事って厳しいな……。


「ねぇ万葉、まだ入学してそんなに経ってないのに色々事件を解決しすぎじゃない?」


「俺に言わないでくれよ、昔からそうなんだ。俺は何もしてなくても事件が向こうから俺の方にやってくるからな、やってきた以上は出来ることをしてるだけだ」


 ︎︎親の事もそうだし、俺は生粋の不幸体質ってことだ。本当に俺の親はどこ行ったんだ? 俺がいるってことは親はもちろんいる訳だし、多分俺であろう赤子を俺の親らしき人が抱っこしている写真は元の家にあったからなぁ……本当に謎だな。

 ︎︎その写真が本当に俺と俺の親の写真なのかは不明だけどな。


「五月雨さん、最近紗良の方に行きすぎです。貴方の主は私なんですから、私の許可なく紗良の方に行ってはダメです」


「えー、イブちゃんには優羽くんがいるじゃん。普通に万葉くんとは友達だし、私を助けてくれたし……」


「い、今有栖さんは関係ないですよね! とりあえず、五月雨さんは私の護衛なので!」


 ︎︎お嬢様分かりやすいなぁ、この場に優羽は居ないけど居たら絶対にからかわれてるよな。俺は正直恋愛とかは興味無いし、そもそもとして護衛だし無縁だと思ってる。

 ︎︎相手も嫌でしょ、付き合った相手が親いなくて住み込みで働いてるって。


「イブちゃんはもうちょっと万葉くんに自由をあげた方がいいと思うよ? だって護衛とはいえ万葉くんも高校生なんだから友達と話したりしたいでしょ。束縛しすぎて万葉くんが護衛をやめたらイブちゃんに何ができるの? 恵みたいに自分で自分の身を守れるわけじゃないでしょ」


「そ、それは……」


 ︎︎紗良の言っていることは厳しいが紛れもない事実だった。恵は護衛である雅人と一緒に護身術を学んでいたので正直一人でも問題ないくらいではあるのだがイブは別だ。

 ︎︎恵みたいに自分で身を守れる術もなければ、紗良みたいに相手を揺さぶるような言葉を吐くメンタルもない。


 ︎︎言ってしまえばイブは危ないということを知らない温室育ちのお嬢様。そんなイブに圧倒的な実力を持つ護衛である万葉が居なくなったらどうなるかは一目瞭然だ。


「これは警告だよ、万葉くんみたいな実力を持った高校生護衛なんてそうそう居ないんだからさ」


「別に俺はどんなことされても辞める気ないですけどねー。食住を揃えてくれる職場を辞めるわけないじゃないですか、というか辞めたら帰る場所ないですし」


 ︎︎家を解約した時点で俺が向こうから解雇されない限りはこの仕事を続けることは決まっている。そもそも仕事辞めたらここの学校に進学した意味が無くなるんだよな、別に優羽が居るしただの学校生活になるだけなんだけど。


「紗良さん、うちのお嬢様をこれ以上虐めるのはやめて貰ってもいいか? 紗良さんが今言った自由だとか友達と話したいとかの事ことは俺が決めることだ。さっきも言ったが答えを言うと、辞めるなんて有り得ない、だ」


「万葉、これ以上紗良お嬢様を威圧するのはやめろ。万葉が辞めるとか関係なく紗良お嬢様の言ってることは正しいだろ?」


「そもそも俺は生活を提供してもらってる側だし雇い主はお嬢様だ。勤務中なら俺にどういった行動をさせるかはお嬢様の自由だと思うが?」


 ︎︎雇ったのはお嬢様じゃなくて当主さんかもしれないが、俺はその人に会ったことがない。だから今俺が従うべきなのはお嬢様だ、少なくとも俺が当主さんと会うまではお嬢様に従う。


「友晴、俺が今のままでいいって言ってるんだからそれでいいだろ? そもそも他所の家の護衛の事情に介入出来るほどお前らは偉いか?」


「紗良お嬢様を侮辱するんだったらたとえ万葉でも許さないぞ?」


「先に文句を言ってきたのはそっちの方だろ?」


 ︎︎イブと紗良は二人を止めようとしたが、既に手遅れだった。お互いに睨み合い、一触即発の状態になっていた。


「ここは学校だ、さすがに校内で問題を起こすのは紗良お嬢様の顔に泥を塗ってしまうからな。ただ、忘れたわけじゃないぞ……万葉」


「二回目だが、先に文句を言ってきたのはそっちのお嬢様だ。友晴は言い聞かせておけ、お嬢様だからといって意見が通ると思うなよ、とな」


 ︎︎名家の生まれだとしても人間だ、憲法の元で平等だと定められている。つまり紗良さんも俺と同じ立場だ、紗良さんの意見に反論する権利ぐらい俺にもあるだろう? それでも友晴が何か言うのなら、徹底的に口論してやるよ。


「護衛としてまだ一年も経ってないペーペーが……。この世界の厳しさを教えてやるよ」


 ︎︎チャイムがなったことでこれ以上の口論は起きなかったが、万葉と友晴の仲が悪くなったのは間違いないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る