第4話 毒舌お嬢様
「新しい護衛さん? 一週間もてば良いほうですね」
︎︎見た目とは裏腹にお嬢様は毒舌だった。というか一週間もてば良い方って今までの護衛の人は全員、一週間経たずに辞めたってこと? 俺が考えてた生活はできなさそうだな、これ。
「お嬢様、五月雨君とは四月から一緒に学校行くことになるんだ、今のうちに仲良くなってた方がいいと思うぜ。あまり厳しくしてるといざという時に見捨てられるかもな」
︎︎確かに言ってることは間違ってないかもしれないけどお嬢様にそんなこと言っていいのか? 別にどれだけ厳しくされようとも見捨てる気は無いけど、関わり方は変わるかもしれない。
「この人がそういうことをできない状況だというのは知っています。せいぜい他の御方と同じ結末にならないよう頑張ってください」
︎︎それだけ俺に伝えてお嬢様は部屋を出ていった。……名前すら聞けなかったんだけど、これから仲良くやっていけますかね? まぁ生活するためには毒舌お嬢様に耐えないとなぁ。
「有栖、俺に何とか言うよりお嬢様の毒舌をどうにか出来ないか? 俺が妥協して合格にしたやつは全員一週間でやめてるんだが?」
「……奥様に相談しておきます。五月雨様、お嬢様は毒舌ですが根は優しい御方ですので辞めないでくださいね?」
「辞めたら生活できなくなるので辞めませんけど……」
︎︎四月から同じ学校に通うことになるから仲良くしておきたいんだけどな。全く話せない状態でお嬢様の護衛として傍に居るのは流石にきつい。
︎︎多分そんな状態が続いたら俺の身が持たなくなるので今から話に行こう。
「ちょっと今から話に行ってきます。護衛としてお嬢様のことは知っておかないとダメだと思いますので」
「念の為俺も行くわ、お嬢様を止めれるの俺だけだし」
︎︎柊さんについて行ってお嬢様の部屋の前までやってきた。正直話せるかは分からないが行動を起こさないよりマシだろう。
「お嬢様ー、護衛の五月雨君連れてきたから二人で話しておいてくれ。仲がある程度良くないと学校に行った時に怪しまれるぞー」
「お父様の護衛として何年も過ごしてきた柊さんが言うなら仕方ありませんね。それでは少し話をしましょう、変なことしたらすぐに追い出しますから」
︎︎俺は部屋の中に招き入れられて椅子に座るが緊張感がすごい。まるで面接みたいだ、面接がどんな感じか知らないけど。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はイブ・スコポフスカヤ・九条、ロシアと日本のハーフです」
「俺は五月雨万葉、まぁ仲良くしてください。ちゃんと護衛として命懸けでも守るので」
「働くのは四月からですよね? 今から私と話す必要はあるのでしょうか。有栖さんと柊さんの出す両方の試験を合格した唯一の人とは聞いていますけど、具体的にどれほどものなのですか?」
︎︎俺は受けただけだし、合格することがどれほどすごいことなのかは正直分からない。学力試験の方に関しては普通に中学生活を過ごしていれば解けるし、護身術の試験の方が難しいと思う。
「五月雨君は凄いぞ、護身術は俺と同レベルな上に有栖の試験で満点だ」
「あ、満点だったんですねあのテスト。護身術に関しては避けることに特化してるだけですからね?」
「すご……いえ、それぐらい当然ですね。これから私の護衛になるんですからそれくらいできてもらわないと困ります」
︎︎ん? 今絶対すごいって言いかけたよね? 有栖さんの言っていた根は優しいっていうのがこういう事なのかは分からないけど、褒めるという心はあるみたいでよかった。
「……その手どうしたんですか。どこか、柊さんと似たような感じがします」
「あー、ちょっと人を庇う時に刺されたんですよ。結構前の話ですし、心配しなくても大丈夫ですよ」
「貴方は、馬鹿なんですか? 柊さんは仕事なのでお父様を庇い怪我をするのは仕方ない思います。貴方は無関係の人を庇い怪我をしている、それになんの意味があるんですか」
︎︎言われていることはごもっともだ、無関係の人を庇うなんてどうかしている。あの時に俺が行動しなければ多くの人が怪我をしていたかもしれない、それに俺は護身術という力を持ってる側なんだから俺が戦わないとな。
「綺麗事だとか偽善者だと言ってくれて構いません、でもそれが護身術という力を持っている人の役割だと思いませんか?」
「本当に……馬鹿です、仕事でもないのに自分の命を使って他人の命を助けるなんて。もし貴方が死んだ時、残された側の気持ちも考えてください」
︎︎初対面で怒られるとは思ってもいなかったが一般人からしたら理解できない考えか。柊さんのように仕事でやっているのならまだしも俺は自発的に行動したからな。
「これからはその馬鹿みたいな行動を仕事として行ってください。その、これからよろしくお願いします……五月雨さん」
︎︎その言葉を最後にお嬢様との会話は終わった。部屋を出てまず思ったのがお嬢様は普段、クールで厳しくて毒舌だけど時々ボソッとデレるということだ。
「お嬢様との話も済んだな、見てる感じ仲良くやれそうでよかったぜ」
「俺も普通に話せる人で助かりましたよ。まぁ厳しくて毒舌ですけど」
「まぁ毒舌なのは慣れてくれ。あれでも少しマシになった方だ」
︎︎全く話せなくて気まずい生活をする羽目にはならなそうで安心した。にしても……俺が死んだ場合に残された人の気持ちを考えろ、か。
︎︎お嬢様からのアドバイスだ、覚えておくことにしよう。
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