第3話 試験

 ︎︎ご飯を食べて着替えてから柊さんの元に向かうと、既に準備は出来ているようだった。ただ、明らかに昨日と纏っている雰囲気が違う。

 ︎︎言ってしまえば昨日は手を抜かれていたような感じがする。


「五月雨君、君は俺が見た中で一番の才能を持っている、学力の面でも、護身術の面でもだ。才能があるだけじゃダメだ、俺は護衛になってそれを思い知らされた」


 ︎︎そう言うと柊さんはナイフを懐から取り出して構えた。見た感じ本物、試験とはいえ実践に近い形でやるってことか。

 ︎︎流石に偽物だとは思うが実際の場面を想像してあれは本物だと思った方がいいだろう。


「今まで俺は多くの才あるものを見てきた。だが覚悟を決めている奴はいなかった……君は今までのやつとは違うことを願っているぞ」


 ︎︎柊さんが動くのを見て俺も動き始める。うん、試験とは思えないほどガチだ、普通に柊さんは俺を殺す気で来ている。

 ︎︎それに柊さんのパンチは当たったら怪我するレベルのもので、その上鋭利なものを持ってるんだから尚更避けないといけない。


「俺は今本気なんだが……これでも全て避けられるか。ただ、俺が求めてるのはそれじゃない」


「分かってますよ、ただ避けてるだけの人間を求めてないことぐらいは」


 ︎︎俺は柊さんがどんな人を求めているかを理解しているがまだその時では無い。もしかしたらそうしなくとも抑えれるかもしれないのだからもう少し様子見だ。


「……」


 ︎︎避けれる、絶対に当たらない、だけど……このままじゃ当てることは出来ない。それじゃあ覚悟を決めるとしますかね!


 ︎︎俺は避けるのを辞めて前に飛び出す。当然柊さんもそれに反応してナイフを突き出してくるが俺はそれを左手で受け止めて飛び出した勢いのまま柊さんの体を殴り付けた。


 ︎︎ナイフは偽物だったが尖ってはいたので普通に痛かったが護衛になるってことはこれ以上の痛みに慣れないといけないんだろうな。柊さんの体的に何回も刃物で切りつけられるんだろうし。


 ︎︎手をやられた時の痛みを何回も受けるのか……普通にきついなぁ。まぁ慣れないと護衛なんてできないし、護衛が出来なければ俺は生活できないし仕方ないか。


「君のパンチも人のこと言えないじゃないか……。それで、手は大丈夫か? 本物ではないができるだけ本物に似せた鋭利なものだからな」


「まぁ痛かったですけど血出てないんで大丈夫です。それで俺は合格ですか?」


「護衛として働くのは四月からだ。まだ中学校もあることだろうからな、冬休みが終わった後はこの館から通うといい」


 ︎︎またもや後ろでずっと見ていた有栖さんから「おめでとうございます」と言われたのでこれは合格ということでいいのだろうか。


「いやぁ久々に楽しかった、五月雨君が良ければ週一ぐらいのペースでやり合わないか? 引退して数年経つが君を指導していたら昔を思い出したものでな」


「ダメですよ柊様、相手はまだ中学生、それもお嬢様の護衛となる人なんですから。怪我でもさせたらどう責任を取るおつもりで?」


「ずっと見ていた有栖なら分かるだろ、五月雨君にパンチを当てるのは困難だってことを」


 ︎︎避けることだけを考えれば確かに柊さんのパンチは当たらないと思うが当たった時の代償が大きすぎてやりたくない。というかまた二人の口論だよ、従業員同士仲良くなれないのかね?


「土日ならいいですよ。流石に学校がある日は休みたいですからね」


 ︎︎それに今週は退去立ち会いだとか色々予定があるので柊さんとやりあうとしても来週からだ。ちなみに荷物に関しては家具付きアパートだったのでこちらに持ってくるものは教科書とかリュックとか学校関係の物ぐらいだ。

 ︎︎その荷物も有栖さんに運んでもらったしあとは退去立ち会いをすれば俺の住む場所はここになる。


「五月雨様、荷物は部屋の角に置いておきましたので後で確認しておいて下さい。あと、柊様は上司という訳では無いので反抗しても構いませんよ」


「指導者ってそこまで立場低いものかねぇ? 少なくともメイド長の有栖とは同等レベルだと思うんだが?」


「私が言いたいのはそういうことではありませんよ。合格したのなら五月雨様の上司はお嬢様だけになると言うだけの話です」


 ︎︎そういえば俺ってお嬢様の護衛になるための試験してるんだったな。ここに来てから一回もそのお嬢様に会ってないから忘れていた。


「お嬢様にはいつ会えるんです? 護衛になるのだったら早いうちから仲良くなっていた方がいいと思うんですけど」


「お嬢様はそろそろ帰ってくると思いますのでその時に話してみてはどうでしょうか?」


「そろそろというか、もう帰ってきてるぜ? まだ館には戻ってないが……いや、噂をすればご登場だ」


 ︎︎扉の開く音がした方に視線を向けると、純白のワンピースに身を包んだ小柄の女の子がいた。髪は銀髪で、美少女といったらこの子! という感じの女の子だった。

 ︎︎恐らく日本人ではないがそんなことどうでもいい、ひとまず話しやすそうな人だったらなんでもいいのだ。


「新しい護衛さん? 一週間もてば良い方ですね」

 ︎︎

 ︎︎お嬢様は毒舌だった。

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