第19話 エルフのおじさん

体を拘束していたツタの力が抜ける。

私はその時点で命があったことにホッとしてしまっていたが

アルマはまだ戦闘体勢だったようですぐに後にいた人影へと木の棒で殴りかかる。

「こらこらそんなの振り回したら危ないよ」

人影は木の棒を手で受け止めるとアルマごと軽く投げ飛ばしてしまった。

「いって」

「敵意とかないから落ち着いて」

そう言って人影が指を鳴らすと神殿全体に灯りがともる。

灯りが影を消し現れたのはエルフだった。


「ごめんね驚かせちゃって、最近ゴブリンとか増えてるからさ勘違いしちゃった」

すまんすまんとエルフは手を前に合わせてふる。

「こちらこそごめんなさい。ここはエルフの神殿だったのですか?」

ローズが確認をとる。シスターが教会のものだと言っていたが

その情報が古いかもしれない。それを聞くための質問だった。

「いやここはエルフと人間が共同で建てた場所だからね。両方のものと言えるよ」

エルフが壁を見るように促す。見てみるとエルフと人間が手を繋いでいるような壁画が書いてあった。


共同で建てられたものだったのか。エルフの森に近いし勝手に建てるわけにはいかないし当然か。

改めてちゃんとしたあかりの灯った神殿内部を観察していると席に座るようにと勧めてくれた。


「いやほんと人間を見るのなんていつぶりだろう。ここ最近来なくなっちゃったよね何かあったの?」

「ここ最近とはいつぐらいですか?」

「そうだね。百五十年くらい前かな」

「カリバス、なんでか来なくなったかわかる?」

「いや流石にそこまで昔の理由はアタシも知らない。」

「そっか。人間にとって百五十年前って昔のことなのか。すっかり忘れてたよ。ぼくも君たちから見たらおじさんか」


百五十年前を最近と言えるのは長寿を誇るエルフの特徴だ。

しかし確かにかっこいいと思うけどなんか違うような気がする。

でもおとぎ話で聞いたものが実際に目の前に存在するのはなんだか不思議な気持ちになる。そんな思いを女子三人は持っていたがアルマは違うようだった。

「エルフの兄さんはよ、さっきどうやって俺の一撃を止めたんだ」

「おじさんでいいよ、兄さんはちょっと恥ずかしいし。あのねあれはね、あれだよあれ」

「あれってなんだよ」

「無意識でやっちゃうことだから説明が難しいな。人間とは知覚できるものがそもそも違うからね。まあでもこのくらいだったら誰でもできるんじゃないかな」

「誰でも・・」

アルマが意気消沈してしまった。

アルマもかなり強いと思う。それも憲兵とかの大人より。

けどそんなアルマより強いのがエルフという種族なのだろうか。

かっこよくて強いそんなことがあって良いのでしょうか。

そんなアルマより弱い私が冒険者なんてやっても良いのでしょうか。

なんだか私まで暗い気持ちになってきた。


「ああごめんごめん。そんなつもりはなかったんだ。なんでもするから」

「なんでもですの?」

「へ?」

「今なんでもって言いましたわね」

「う、うん」

「でしたらここにあったとされる金銀財宝のありかについて教えて欲しいんですの」

「金銀財宝!?」

ローズはかなり強気だ。

少なくともこの四人相手にしても余裕なエルフにくってかかれるのは世界広しともいえどローズだけだろう。揚げ足取りの速さが半端じゃない。ローズ半端ないって。


「うーん。そもそもエルフは金属を使ったりしないしな〜。だいたいここができた当初から金銀財宝なんてなかったと思うけど」

「そうなんですの」

今度はローズが意気消沈する番だった。

「ほっ他にはなんかないの?金銀財宝以外で!!」

「だったらアタシ、薬草が欲しいっす」

「あっ薬草ならどこにあるかわかるよ!ついておいで」


エルフのおじさんはそう言って立ち上がるとドアの方へと走っていく。

お金に変えることができる唯一の希望である薬草があると聞いてローズがすくっと立ち上がり、意気消沈したままのアルマとシスター、私をひきづって追いかける。


森の中は迷いやすくかなり歩きにくかったが今回はおじさんの案内があるおかげか

スイスイと歩くことができた。

おじさんはシスターとローズからどの薬草が欲しいのか聞き出し採取できるところまで連れて行ってくれた。


「おーホントだ薬草が群生してる。」

「こちらはカリバスとあるまでお願いしますの。わたくしとスーは別のところで採取してきますわ」


そう言ってまた2手に分かれて今度は薬草の採取をすることになった。

「紫連花、神然薯に魔素の実もありますの!!!」

半狂乱だった。でもそんなローズも可愛い。


紫連花は紫の色の原料で神然薯は滋養強壮の漢方に使える、魔素の実は魔力ポーションの元にもなるしそのまま食べることもできるらしい。よくわかんないや。

どれも貴重でお金になるそうだが区別があまりできないので紫色をして群生している比較的わかりやすい紫連花を集めることになった。

草むしりとかをする場合は根っこの方まで取らないといけないが

今回は原料となる花の部分を積んでしまえばいいらしいので特に考えずぱっぱっとつんでいく。


しばらくつんで指を見てみると、紫色に変色していた。

これが服の着色に使われるらしい。確かに綺麗な発色をしている。

そうやって眺めているとローズから早くしなさいという言葉が飛んできたので急いで

つむ。


さらに摘んでいると日もくれて採取バッグもいっぱいになってきたので終了となった。アルマやシスターにも声をかける。

おじさんに終わったことと感謝を告げるとまた教会の方へ案内してくれた。


「全然泊まって行っていいからね。建物にいる間は基本安全だから」

その言葉に甘えて今日は神殿の中での一泊となった。

広いとはいえ草原よりは狭いし、壁と天井もあって雨風の心配もない。

強いていえば床が硬いがそんなものは誤差だ。

今回の旅で一番いい寝所と言っても過言じゃない。


ローズとシスターは薬草が取れて嬉しそうだし、アルマも元気になったようでよかった。

満足とした気分のせいかとても気分穏やかだ。

最高の睡眠が取れそうだ。

good night.・・・・・・

・・・・・

ドン!!

頭をすごい力で押さえつけられる。

突然の衝撃に目を開けるとそこにはナイフが突き刺さっていた。

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