第10話 楽しく飲もう

延期した成人の儀ははボロボロとなってしまった教会ではなく

野外で行われることとなった。

朝は雨が降っていたので少し心配だったが成人の儀が始まるまでにやみ、

快晴になった。


メンバーはアシュラ以外は集まり行われた。

前回と同様牧師の話から始まったが流石に懲りたので大人しくしていた。

話が終わると牧師が壇上にある儀式の道具でなんやかんやしていた。

何をやっているのか理解できなかったが実際に魔術を使ったりはしていなかったので

文化的側面からのものだろう。


儀式の最後として前回同様水瓶の前に男がたった。

袖をまくり手を水の中へと潜らせる。少し待っていると男は手を引き上げ、

今回参加した成人メンバーたちと同数のコップで中の水を汲み始めた。

そして近くにいた教会の人たちがそのコップを私たちへと配った。

「本来儀式の最後は果実酒を飲むのですが、今回は神の恩恵に感謝し、

水から酒を作ることのできる恩恵を授かったコール・アルパンの作った酒を皆さんで

いただきましょう」


もらったコップを臭うと確かに水ではなくお酒の匂いがする。

めちゃくちゃすごいと思う。彼がいれば世の中のアル中大歓喜だろう。

たださぁ男が殺菌してない手で作った。酒を飲みたくなくないか?普通。

絶対やばい病原菌とか繁殖しているし、たとえしてなくても生理的に受け付けない。

そこらへんに捨ててしまいたいが雰囲気的にそんなことできない。


ええいままよ。

周りに合わせるためにも一気に胃の中へと流し込む。


その瞬間のどが火を吹くように熱くなる。のどだけではない。全身が熱い。

「ゲボォ!!」

どこからともなく嗚咽が聞こえてくる。一人ではない複数人だ。

隣にいたローズも口に入れた酒を吹き出してしまっている。

こうなってしまった原因はすぐにわかった。

「度数がめちゃくちゃ高いぃ」

ビールとか日本酒とかの比じゃないアルコール度数の高さ。

60度以上あるのではないだろうか?

15歳という年齢もあり鼻や舌が敏感なだけかと思ったが普通の人間がコップいっぱい飲めるものじゃない。

「神の恩恵によって作られたお酒を吐き出すとは何事ですか!恥を知りなさい!」

壇上から牧師が叫ぶ。

今の状況分かってないのか。このジジイ。

大半の人が吐き戻し、お坊ちゃんに至ってはその場で失神している。

まともな顔をしているのは爆乳とヤンキーシスターだけだ。

自分で作ったコールもえぐい顔してるのが見えないんですかね?


しばらく咳をしているとシスターが近づいてくる。

「おい。あんた大丈夫か?」

そう言って肩を叩き水を差し出してくる。

「あっありがとうございます」

水を飲んで一息つくと先ほどの熱が嘘のように消えた。

「まっ気にすんな」

そう言ってシスターは他の人たちにも水を配っていた。

オラついているのでヤンキーかと思っていたがシスターはシスターなようだ。

同じ教会勢なのにこの違いはなんなのだろうか。

そう思いながら壇上の牧師を睨みつけていると牧師は

「本当最近の若い人たちは忍耐力が足りません。こんな人たちに神の恩恵が与えられているなんてとてもじゃないが信じられない。」


殺すぞ。マジで。

周りの人も同じ考えのようで殺気がチラチラと出ていた。

その中でも一際すごかったのが先ほどのシスターだった。

「お前さぁ、いい加減しろよマジで」

「牧師に対してなんという口の聞き方ですかシスター・カリバス。口を慎みなさい」

「テメェが口閉じてろよ。クセェんだから。」

「なっ!」

「だいたいよぉテメェだって下戸じゃねぇか。そんなに神の恩恵に感謝したいなら

テメェ自身が飲んで感謝しろよボケが」


シスター。いや姉貴マジパネェッス。かっこいいっす。一生ついていきます。

次々と浴びせられる暴言に牧師は赤くなり、周りは慌てふためいている。


「あなたいい加減にしないと「しないとなんだよ。テメェになんかできんのか?あ!?」

シスターは言葉のまま壇上へと上がり込み、牧師の胸ぐらにつかみかかってしまった。


見ている方からしたらかなりドキドキする場面だ。

仲間内なのにも関わらずここまでの喧嘩をするのはどうしてなのだろうか。

ちょっとヒートアップしすぎているような気がする。

どこかにオチを用意しないとまた大事に至るかもしれない。


「あのーすみませんもういっぱいもらってもいいですかー?」

そう言いながらソフトボールのウィンドミル投法でコップを牧師に向かって投げつける。そしてすぐさま強制ASMRの体制に移行しシスターに発動。

「あん❤️」

先ほどまでの声と打って変わって可愛らしい声をあげたシスターは力が抜けたのか

その場にへたり込む。当然投げられたコップは牧師へと命中し、後へとよろけさせる。同時に牧師へとASMRを発動し力を抜けさせる。

「あっ」

気のない声を上げた牧師は近くにあった度数の高い酒の入った水瓶に寄りかかり、

そのまま頭から中に突っ込んだ。

数秒後呆気に取られていた教会の人が牧師を救出したが牧師はどうやら酒を飲み込んでしまったらしくグデングデンになってしまっていた。


「アーゴメンナサイー」

棒読みで壇上に上がり牧師ものとへと近寄ると助けるふりをしていると

シスターが爆笑しながら私の肩を叩き

「あんた面白い奴だな」

と並々と酒が入ったコップを差し出してくれた。

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