第7話 なぜ木の棒しか持ってないんですか?

バキン!!

鈍い色を放っていた手錠はその音と同時に本来の色へと戻り、

四方に弾け飛んだ。

突然起きた事態にあっけに取られた護送兵は

立ち上がったアシュラに1撃で吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。

石造の壁に叩きつけられた護送兵はそのまま床にどさりと力なく落ちた。

邪魔者を排除できたアシュラは凄まじい筋力で垂直とびをし、

天井へと足を突き刺しぶら下がり周囲を恐怖で包み込む雄叫びをあげた。


         「ヴゔォァあアアアア!!!!!!」


冷や汗が身体中からドバッと出る。

せっかくの綺麗な服が台無しだが、逆に汗だけですんで幸運だったと言える。

それだけにアシュラの迫力・恐怖は凄まじいものだった。


やらかした。

こんなことになるならやらなければよかった。

後悔したところでどうなるわけでもないがそう思わずにはいられなかった。

恐怖で全身が凍りつきそうだがそれ以上にこの場から逃げたいという気持ち

が前世を含めこれまでないレベルに頭を回転させる。


しかしどれだけ頭を回転させたところで絶望的な状況は変わらない。

まず枷を外されたアシュラから親を連れて逃げるには扉までの距離が遠すぎる。

どれだけ走ったとしても先ほど見た驚異的な跳躍から逃げられるとは思えない。


緊張に包まれた中、男が木の棒を振り上げる。

「おい、化け物。俺と戦え!」

男は木の棒を軽く振りアシュラに対して挑発をする。

言葉が通じたのかは不明だがアシュラは挑発を受けると天井から

真っ逆さまに落ち、拳を木の棒を持った男に叩きつけた。

バコン!!

と凄まじい音をたて石畳が割れ、砂塵がまう。

その風圧が近くに、いたおぼっちゃまとローズたちは壁方向へと飛ばされる。

ローズはとっさにおばあちゃんを受け止めそのまま

私へと倒れかかってきた。

二人にのしかかられる状態となったがどちらも軽かったので

大事には至らなかった。


二人を起こして頭を上げどうなったのか見ると、

木の棒を持つ男は前転で扉の方向まで転がりアシュラの攻撃を避けたのがわかった。

「意外と遅いんだな」

男は挑発を続ける。


この事態になった原因である私が人のことを言えるのかわからないが

相当あの男は馬鹿らしい。

先ほどのアシュラの攻撃を避けることができたのはすごいと思うが

次もそうなるとは限らない。もし避けることができずに直接あのパンチを

受けることになれば四肢爆散になるだろう。

扉に近いにもかかわらず逃げるどころかさらに挑発をするのはどう考えても

自殺行為にしか思えない。


「ヴヴう!!」

あまりの力強さに床が少し剥がれる。

直線で向かうアシュラに男が轢き殺されたように見えた。

しかし男は立っていた。

アシュラの後ろに。

何が起こったのか目で追うことはできなかったが

粉砕された木の棒とすれ違った位置、爆音から男がいあいぎりをしたということがわかった。


そのままアシュラが倒れてくれればめでたしめでたしだったのだが

粉砕された木の棒を持つ男を睨む姿からはそんな気配は微塵も感じられなかった。

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