第3話 イエ・ローズ

異世界にきて美男美女を見た。

自分を含めて。


目の肥えた今容姿によって驚くことはないと思っていた。

ただ彼女満面の笑みはこちらを呑み込む圧倒的なものだった。


「何をしている!!こちらに戻しなさい」

教会の男が鬼気迫る様子でこちらに詰め寄ってくる。

内心ヒヤヒヤとしながら縮こまっていると


「あらごめんなさい」

彼女はそう言って宝石を元の場所へと戻す。

そうして笑顔を男に向けると男は

「つ次からは気をつけなさい」と言って仕事に戻った。


それだけ?

明らかに触ってはいけないものだと思うのだが

彼女が笑みを見せた途端男は引っ込んだ。


不思議な状況だが原因は明確だ。

彼女の美貌に私と同様圧倒されたのだ。


金髪碧眼最高のスタイル

美女の定義を辞書を引くと彼女の絵が出てくる。

絵で彼女を表現することができるのか不明だがそうあってもおかしくないような

美しさを彼女は周りに解き放っていた。


「ローズ、はしたないわよ」

「ごめんなさいおばあさま」

そう言って後から来た貴婦人が彼女をたしなめた。

保護者だろう。


「横失礼いたします」

そう言って彼女たちは隣に座った。


そして一言

「あまり調子に乗らないほうが身のためですわよ」


「あなたはどんな特殊なことができるか知りませんが私の美しさの前では等しく無。

 神の恩恵を受けたなんて嘘でもおっしゃらないほうが良いと思いますわ」


ドSMRが耳元で行われる。

驚いて横を向くと彼女は先ほどと同様の笑顔のままだった。

体が芯まで凍ってしまうような言葉は彼女から発せられたとは考えることができないいくらいに綺麗な。


言いたいことを言えてスッキリしたのか彼女は満足そうに顔を前に向けた。

今のは一体なんだったのだろう。

宣戦布告だろうか。あまりの敵意に鳥肌が収まらない。

私が流した「神の恩恵を受けた子供が生まれた」という噂の信奉者だろうか。

確かに彼女は神の恩恵を受けていると言っても過言ではない美貌をしている。

周りからもそう評価されてきたのだろう。

少なくともローズは自分が神の恩恵を受けた子供だと信じているのだろう。

ではなせこちらを敵視するのか。


(あなたはどんな特殊なことができるのか知りませんが)

なぜ私が特殊なことができると思ったのだろう。

強制ASMRができること以外に特別なことは何もないのに。


不思議に思いながら座っているとぶつぶつと隣から独り言が聞こえることに

気がついた。

絡まれたくないので露骨にならないようにローズのを見てみると

手帳のようなものにびっしりと書かれた文字を指でなぞりながら、

口で確認しているようだった。


受験勉強か?

昔の思い出が少しよみがえる。嫌な思い出だ。

転生しても忘れることのできない思い出を振り払いながら

状況を整理する。

そもそもこの世界では受験勉強なんてない。

学術系の施設に入るのだったら金とコネだ。

というか紙すら貴重なものだから

文字の読み書きができる人は少ない。というか必要がない。

かくゆう私も自分と親兄弟の名前、そして数字ぐらいしかわからない。


そんな私は

熱心にローズが読んでいるキッチリギッチリ書かれた手帳から

八つの名前を読み取ることができた。

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