第2話 宝石が綺麗ですね

アイデアは良かったと思う。ただこんな事態を想定できなかった。


私は前世で培ったASMRの技能と記憶を引き継いだまま光る物体(おそらく神)

からこちらの世界に転生させられた。

ASMRの技能はネットを介さず行うことができるというおまけ付きで。


例えば

「神の恩恵を受けた子供が生まれた」

といった言葉を実際には発さずに遠くの誰かの耳元へささやくことができる。


最初は親に対してミルクやおしめ?の要求をする程度だったのだが

チヤホヤされたいという思いから先ほどの言葉を近所中にささやいた。

どこからともなくささやかれる言葉に誰しも最初は驚いたが

時間が経つにつれて「神の恩恵を受けた子供が生まれた」という

神の宣告はこの町の共通認識となり最近生まれた子供を大切にしようという

ムーブメントが起きた。


もちろん私は自分を可愛がってもらうためにこのささやきをした。

当然親は私を蝶よ花よと育て近所の人もたくさん貢物をした。

たくさん可愛がられた私はすくすくとその美貌をあらわにし、

一国の王子がその存在を耳にした。

求婚にきた王子様と私は結ばれ、幸せの中生涯をまっとうした。




とはならなかった。

ならないんだなこれが。


特段親は私を可愛がらなかった。

ネグレクトとかそういうことではない。

飯はまずいしベットも固かったがそれはこの世界で一般的なものだ。


いややはり親からは他の兄弟に比べて可愛がられたように思える。

ただそれだけでしかなかった。

たくさんのご飯や金銀財宝を貢がれることは結局なかった。

その理由は15歳の成人の時にわかった。



「スー!行くわよ!!」

母が呼ぶ。

「はーい」

成人の儀のため小綺麗な格好をして教会へと向かう。


成人の儀と言っても何か特別なことをするわけではなく

ただ椅子に座って偉そうな人の話を聞くだけだ。


教会のドアをくぐり辺りを見渡すがまだ他の子供はいないようだった。

最前列の椅子に母と腰をかける。

壇上ではさまざまなものを教会の男たちがあちらこちらに配置し、

式の準備をしていた。

「手伝ったほうがいいかな?」

母に尋ねると

「勝手に触ったりしたら怒られるから座ってなさい」

と返ってきた。

そりゃそうか一応儀式だし。儀式で使うである見るからに

高そうな宝石のものや草の冠のようなものが置いてある。

神聖なものなんだろうなと納得して座っていると

「まあなんて綺麗なんでしょう」

後からやってきた女は壇上の机の上にある宝石を素手で掴みながら

こちらにやってきてそのままこちらに差し出す。

「見てください。とても綺麗ですよね!」

私は唾を飲んだ。


マナーを蹴り飛ばす行為をしたこと

その宝石が実際にとても綺麗なこと


を忘れさせてしまう彼女の美貌に驚いて。

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