レイの協力要請

 恐らく、今……私の顔は血の気が引いて真っ青になっているだろう。そんな私を見て、レイはなにも言わずにただ見つけてくる。


 彼のガーネットのような赤い瞳に、言葉をんだ。


 ――彼はきっと、自分の意志を曲げないだろう。わかっている。レイがだって。


 でも、やっぱり……。


「せめて、レイが危険なことにならないように、対策しよう?」


 懇願するように、言葉を紡ぐ。声は震えていたと思う。そんな私を見て、彼は一瞬きょとりと目を丸め、それから肩をぽんぽんと叩く。


「そりゃ対策はするって。大丈夫、なんとかなる」

「作戦があるの?」

「作戦ってほどではないけどな。とりあえず、そのためにはギルドメンバーの協力が必要なんだ」


 レイはにっと白い歯を見せてから、歩き出す。彼に手首を掴まれたままなので、私も足を進めた。


 彼が考えている作戦とはなんだろう? 前を歩く背中を見つめながら、ギルドまで歩いている途中、ジェレミーたちが視界に入る。


 ジェレミーたちは聞き込み調査をしていたようで、私たちに気付くと大きく手を振りながら近付いてきた。


「レイモンドさん、トレヴァーさん! ギルドに戻る途中ですか?」

「ああ、ちょうどいいや。お前らも一緒に行こうぜ。作戦会議だ」

「作戦会議……ですか?」


 ソニアが首を傾げる。レイは大きく首を縦に動かし、私の手首を離して両腕を組む。


「試してみたいことがある。それには、お前らの協力も必要なんだ」


 自分たちの協力が必要、と聞いてジェレミーたちはパァっと明るい表情を浮かべた。


「わたしたちにできることなら、がんばります!」


 デリアがぐっと拳を握る。ウォーレンも目を輝かせながら、こくこくとうなずいていた。レイは「頼もしいぜ!」とジェレミーとウォーレンの背中を軽く叩く。


 レイが協力を要請することが珍しいからか、後輩たちはみんなやる気に満ちた顔をしていた。それを見て、なんだか複雑な心境になるのは……やはり、自分が情けないと感じるからだろうか?


「そういえば、新しい情報はあったか?」

「それが全然。四人で手分けして聞き込みしてたんですけど、さっぱりでした」


 レイの問いに答えたのはウォーレンだった。後輩たちはみんなしょんぼりと肩を落としてしまった。情報を得られなくて気落ちしているのだろう。


「一筋縄ではいかないみたいだなぁ、ユーバー・リヒ」

「そうみたいです。やっぱり、偽名なんでしょうか」


 ジェレミーが軽く頬を掻く。どうやら、レイの魔法の蝶から、ユーバー・リヒについて説明を受けていたみたいだ。自分たちが情報を得られなかったことに対し、悔しそうに表情を歪め、苦笑を浮かべる。


「たぶんな。でもまぁ、大丈夫だって」


 慰めるようにジェレミーの肩を叩くレイ。ここで話しているのも邪魔になるだろうから、とギルドに移動した。


 ギルドには先輩パーティーとエイブラムさん、コートニーさんが椅子に座っていた。私たちが入ってきたことに気付くと、みんなが一斉に視線を向ける。


「全員いるなー? じゃあちょっとやりたいことがあるから、オレの話を聞いてくれるかい?」


 レイは大股でいつもの席まで歩き、テーブルの上に置いてにっと口角を上げた。


 私たちもいつもの席に行き、全員の視線が例に集まっているのを感じながら、彼の言葉を待つ。


「コレクターの話では、オレの髪、きれいなんだと」


 いきなりなにを言い出すんだ、とばかりに目を丸くするエイブラムさん。レイはさらりと自分の髪を掻き上げ、それから私たちの顔をざっと眺める。


「――そこで、オレの髪に対する噂を流して欲しい」


 一度言葉を切り、真剣な表情を浮かべた。


「噂、ですか?」


 困惑したように眉を下げながら、デリアが首を傾げる。


「ああ。冒険者ギルド『カリマ』に所属している賢者――レイモンドの髪が美しいってな。どんな比喩表現を使っても構わない。ユーバー・リヒの興味を、オレに向けて欲しい」


 しん、と静寂が広がる。噂を流し、自身の興味を向ける。それはつまり――自分がおとりになるから、協力して欲しいと言っているのだ。


「おいおい本気か? そいつがどんなヤツなのかわからないのに、レイモンドが囮になるって?」

「オレは平気だって。それよりさっさと事件を解決したい。この事件が終われば、オレとトレヴァーはやーっと休めるんだから!」


 ぐっと拳を握り、熱く語る姿を見て、ローズさんがやや呆れたような視線を例に注ぎ声を掛ける。


「早く休みたいだけなの?」

「トレヴァーが加入して一年半! まともに休んだことないぞ!?」


 ……それはまぁ、確かに。依頼はいろいろなところから来るから、場所を移動するために数日使うし、依頼は依頼で達成するまで帰還できない。


 王都に戻ったら半日から一日休んで、次の依頼。


 まとまった休暇が取れた日……なんて、そういえばなかったな。


 レイが休暇を望むのは、そのためだったのかもしれない。ゆっくりと息を吐いて、頬を掻く。目の前のコートニーさんが、大きくうなずいていたのが印象的だった。


「確かに……お前たちには休暇が足りてなかったな」


 シアドアさんがぽつりと呟く。


「魔物討伐や採取依頼、レイモンドさんとトレヴァーさんを指定する依頼人が増えまして……。そろそろふたりには休暇が必要だと、スケジュールを調整していたところでした」

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