情報交換

 ルイス夫妻と会話を終え、それぞれの目的地へ足を進める。


 ギルドまで行き、中に入るとまだ誰もいないようだった。人の気配を感じないので、ギルド長のエイブラムさんと、受付嬢のコートニーさんは恐らく外出しているのだろう。


「朝食でも買いに行っているのかな?」

「たぶん。まぁ、そのうち全員来るだろ」


 いつもの定位置に座り、レイといろいろなことを話しながらみんなの到着を待つ。そのうちに先輩たちと後輩たちがギルドに集まり、残るはエイブラムさんとコートニーさんのふたりだけになった。


「……なんだ、今日は早かったな」

「今、お茶を用意しますね」


 数分後に彼らが顔を出した。私たちの姿を確認すると、目を丸くする。コートニーさんは急いでキッチンに向かったので、追いかけた。今から人数分のお茶を用意して配るのは大変だろう。私と同じ考えを持ったのか、最年少のデリアもキッチンに足を進める。


「コートニーさん、運ぶの手伝います」

「それは助かります。今すぐお茶を淹れますので、少々お待ちくださいね」


 くいっと眼鏡を動かすコートニーさんに、デリアがじっと彼女を見つめる。そして、もじもじと指を合わせているのに気付き、「どうしたの?」と問いかけた。


「いえ……えっと。コートニーさんって大人の女性って感じですよね。仕事もできてお茶も美味しく淹れられて……良いなぁって」


 ああ、なるほど。デリアはコートニーさんに憧れているのか、となんだか和む。


「あら、そうですか? デリアの目にそう見えているのなら、嬉しいです」

「本当ですよ! そうでしょ、トレヴァーさん!」


 ぐっと両手の拳を握って目を輝かせ、私に同意を求めるデリア。


「そうだね、コートニーさんはどんなことにでも落ち着いて対応してくれるので、とても助かっています」


 受付嬢という役割を、しっかりと果たしている。例えば、依頼主がここで依頼内容について熱く語り、こちらがなかなか口を挟めない場合……助け舟を出してくれる。


 ヒートアップした依頼人が一瞬口を閉じた瞬間に、お茶やお茶菓子を持ってきて、食べるように勧める。彼女のお茶を飲むと、依頼主は大体そのお茶の味に感動し、心にゆとりが持てるようだ。


「では、こちらのお茶をヴァージルさんたちに。こちらはジェレミーさんたちにお願いします」


 トレーの上にカップを置く。三つのカップが乗ったほうがヴァージルさんたちのパーティー、四つのカップはジェレミーたちのパーティーの分だ。


「こっちを持っていきますね」


 デリアが選んだのは、四つのカップを乗せたトレーのほう。自身のパーティー人数が四人だからだろう。ひょいと持ち上げて、キッチンから足早に去っていく。


「ふふっ、可愛らしいですね」

「そうですね。憧れをいだくことは、悪いことではありませんし」

「あら、そういうトレヴァーさんも、ジェレミーたちから慕われているでしょう?」


 え? と目をまたたかせた。懐いてくれいるとは思うけど、憧れているのかと問われたら、首を捻ってしまう。


「こちらをお願いしてもよろしいですか?」

「あ、はい。もちろん」


 コートニーさんが渡したのはカップを四つ乗せたトレー。いつの間に用意していたんだ? 彼女は三つのカップを乗せたトレーを持ちキッチンから出ていく。背中を追いかけるように、足を踏み出した。


 コートニーさんがヴァージルさんたちの席に向かっているのを見て、私はいつもの席に足を進めた。エイブラムさんとコートニーさん、そしてレイと私の分のカップを置き、トレーを戻すためにキッチンへ戻る。


 デリアとコートニーさんもトレーを戻し、少し足早で席に行くと、すとんと腰を下ろす。


 全員が着席したのを確認し、エイブラムさんが立ち上がる。


「昨日は各々、調査をしていただろう。今日はその情報交換だ。なんでもいい、仕入れた情報を話すこと」


 重低音の声がギルド内に響く。すっとジェレミーがパーティーを代表してか、手を上げた。


「ジェレミーたちは、なにを仕入れてきた?」


 エイブラムさんは椅子に座り、ジェレミーに問いかける。彼はすっと椅子から立ち上がり、彼らが調べてきたことを話し出した。


「俺たちが聞き込み調査で仕入れた情報は、『男女問わず、髪のきれいな人が襲われている』ということです。えっと……昨日被害に遭った男性には会えなかったんですけど、他の被害者たちの情報をもとに調べてみました」


 今月から始まった事件と、被害者のことをすらすらと説明してくれた。


「狙われるのは、全員美男美女。髪の長い人で、その髪がとてもきれいな人だけ。なので、平民からそういう人を選んでいるのだと思います。殺してはいないので、なんで狙われているのかよくわからないのですが……」


 最後のほうは言葉が小さくなっていた。私とレイは視線を交わし、ゆっくりとお茶を飲む。


 ジェレミーが座ると、今度はローズさんが手を上げた。エイブラムさんがうなずくのを見て、彼女は口を開く。


「ジェレミーの話で思い出したのだけど、王都に『きれいな髪を集めている人』がいるらしいわ」

「げぇっ、髪をっ?」


 心底イヤそうな声を上げたのはウォーレンだ。自身の髪も長いからだろう。ぎゅっと髪を握り、身体を震わせた。


「大丈夫よ、あんたの髪は誰も狙わないって」

「ローズさん、ひどいっ!」


 わっと泣き真似をするウォーレンに、笑いを堪えているのか肩を震わせながら「まぁまぁ」と慰めるように彼の背中をさするソニア。


「『きれいな髪』を集めるコレクターかぁ」

「集めてどうするんだろ……全然想像できないや」

「いや、想像できたらやばいのでは?」


 そんな会話をしていると、シアドアさんが口を開いた。


「そのコレクターは、貴族と平民の境界線近くに住んでいるらしい。貴族が狙われていないのを、幸いと思うべきか……」


 確かに、これで貴族が襲われたら、王立騎士団が動く可能性がある。そうなると、平民が暮らすエリアにも騎士団が来て、余計にピリピリとした雰囲気になりそうだ。


 きれいな髪が好き……ということなら、平民よりも貴族のほうが髪はきれいだろうし。


 しん、と静まり返ったギルド内。レイが辺りを見渡して、手を上げた。


「じゃあ、最後にオレらな。被害者に話を聞いてきた」

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