ギルドに向かう途中

 メロディと一緒に一階まで行くと、食堂はがらんとしていた。


「……あれ、今何時?」

「オレらが早いだけ。みんなまだ寝てる時間だよ」


 昨日休んだのが早かったから、必然的に早起きしたようだ。


「早いな、おはよう」

「おはようございます」

「……うん、顔色も良さそうだな。昨日の夕食はリゾットだけだったから、腹減ったろ? すぐに用意するから座っていなさい」


 マイルズさんがわざわざこちらに顔を出してくれた。優しいまなざしを受けて、なんだか心の中がくすぐったい。私の体調を確認すると、キッチンに戻った。


「ルイス夫妻は?」

「買い出しデート中」


 水の入ったグラスを、アイザックさんが渡してくれた。グラスを受け取って水を飲む。朝一番に飲む水は、身体中に浸透していく感じがして、身体が目覚めていく気がする。


「朝からガッツリ食えそうか?」

「は、はい。大丈夫です」

「オレもー!」

「レイモンドはいつでも大丈夫そうだな、マジで」


 マイルズさんに大声で問われて、同じく大きな声を出す。すぐに「わかったー!」と返事が聞こえた。


 それから数分後、運ばれてきた料理に目を丸くする。


「これ食ってがんばれよ!」


 厚切りのビーフステーキに、コーンスープ、サラダとライスのセットだ。見た目からしてかなりインパクトがあり、朝からこれを注文する強者つわものはなかなかいないだろうと思えた。


「お、ステーキだ! うまそう!」

「う、うん……美味しそうだね……?」


 鉄板の上でじゅうじゅうと音を立てている。牛肉の香ばしい匂いが食欲を刺激する。でもこれ……本当に朝から食べても良いのだろうかと戸惑ってしまう。


 レイは気にせずに、ナイフとフォークを手にして食べ始めた。


 せっかく用意してくれたのだから、いただこう。女神像をぎゅっと握り祈りを捧げてから、ナイフとフォークを手にした。ナイフでステーキを切ると、予想以上に柔らかい感触で目をまたたかせる。


 一口サイズに切り、口に含む。噛むとじゅわっと口内に肉汁が広がり、贅沢な気持ちになった。


 マイルズさんはいつも、よく噛んで食べろって言っているけれど、本当に柔らかくて三十回噛む前に口の中で溶けてしまう。


 これ、とても高いお肉なんじゃ……? と考えていると、「どうした?」とマイルズさんが顔を覗かせた。


「とても美味しいのですけれど、このお肉って……」

「うまいだろ? 昨日、ちょっと臨時収入があってな」


 くつくつと喉奥で笑うマイルズさん。臨時収入? と首を傾げると、ひらりと手を振り「しっかり味わって食えよ」とキッチンに戻る。


 臨時収入がどのくらい入ったのかはわからないけど、その収入を食材に使うところがマイルズさんだなって思う。


 彼の言う通り、味わいながら食べた。王城で暮らしている人たちは、こういう食事をしているのかな、と考えながら顎を動かす。ゆっくり味わいたいのに、あまりにも美味しくて……気付いたらぺろりと平らげてしまった。


 水を一気に飲み込んで、ほう、と息を吐く。


「それじゃあ、ギルドに行こうぜ」

「そうだね。みんなと情報交換しよう」


 レイも食べ終わったようだ。いや、もしかしたら私が食べ終わるまで待っていてくれたのかもしれない。


「事件、早く解決すると良いな」

「努力します」

「まぁ、そのうち解決するって。つーか、絶対オレらが捕まえる」


 ぐっと拳を握るレイに、アイザックさんが「がんばれよー」と声を掛けた。


 宿屋を出てギルドまで歩いていると、ルイス夫妻が腕を組んで歩いているのが視界に入る。仲睦まじい様子を見て、愛し合っている夫婦とはこんな感じなのかなと思考を巡らせた。


 私の一番古い記憶は、母に文字を教わっているところだ。三歳か、四歳くらいだったと思う。その頃に母がやまいに倒れ、エイケン家に引き取られた。そこで暮らしていた記憶はもうあまり思い出せない。楽しい記憶ではないからそれで良いと思っている。


「あら、おはようございます」

「おはよう。よく眠れたかい?」


 ルイス夫妻が私たちに気付き、足を止めた。


「はい、ぐっすり眠れたおかげで、早起きできました」


 昨日はリゾットを食べてすぐに休んだから、早朝に起きることができた。ケントさんは小さく首を縦に動かし、じっと私の顔を見る。どうしたのだろう? と思わず見つめ返す。


「メロディから、具合が悪そうだと聞いていたんだ。大丈夫かい?」

「大丈夫です。昨日も、ちょっと疲れただけなので……」


 心配を掛けてしまった、と眉を下げて微笑むと、ぽんぽんと肩を叩かれた。


「そうかい。まぁ、無理はしないようにな」

「ありがとうございます」


 優しい言葉に頭を下げる。心配されることは嬉しいけれど、同時に申し訳なく思う。


 ――昨日、具合が悪そうに見えたのは、回復魔法を使いすぎただけだから――……。


 神力しんりょくを使いすぎると、ああなることは昔から知っていた。聖騎士団に所属していた頃にも、たまにやっていたことだから。そのたびに注意を受けていたのだけど、最近自分の限界以上の力を使っていなかったから、自分の限界を忘れていたのかもしれない。


「今から、冒険者ギルドで情報交換するんだ」

「そうだったの。早く、犯人が見つかれば良いわね」

「だよなー。王都の人たちもピリピリしているし。さっさと解決して、またのんびりした雰囲気になって欲しいところだぜ」

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