恋愛と結婚
ベッドまで近付いたレイはそこに座り、私はベッドの近くにある椅子に腰を下ろした。
「防音魔法掛けたから、この部屋での会話は誰にも聞こえない。ってことで、明日ギルドメンバーたちにどう説明するのかを考えようぜ」
こくりとうなずいて、あの被害者男性のことを思い浮かべる。レイは口元に指を掛け、「うーん」と目を閉じて悩んでいるみたい。
「レイ?」
「あの人、結構背が高かったよな。ってことは、その人よりも背が高い人ってことになるよな、たぶん。もしくは、魔法の可能性もある」
「魔法の?」
レイは「ああ」と小さく言葉をこぼしてから、また「でもなぁ」と唸った。
「首を絞められたってことは、やっぱりあの人よりも体格の良い人だったんじゃないかな」
「良く死ななかったな……」
「不幸中の幸い、だね」
眉を下げて頬を掻く。
しかも、首を絞めた理由が理由だ。相手はかなり、歪んでいるのがわかる。
「後輩たちに伝えて良いのかな?」
「伝えたほうが良いだろ。王都にはいろんな人がいるから、自衛のためにも」
確かに知っておいたほうが、警戒はできるのかもしれない。
「そうだね。うん、ちょっと柔らかい言い方で伝えてみよう」
世の中にはいろんな人がいることを……。でも、できれば後輩たちには、そういう人たちには会って欲しくない、と考えてしまう。
「貴族の恋人ってことは、伏せたほうが良いかもな」
「貴族に関わると、
自身の苗字である『エイケン』を使うことはない。エイケン家での記憶なんて、もうほとんど思い出せないし、関わるなとも言われている。レイもレイでメイラー家とはあまり関わっていないようだ。
被害者男性の恋人が貴族……ということは、私たちの出生を知っている人かもしれない。
王都は広く、人も多い。王城が坂の天辺にあり、それよりも少し下のほうに貴族の屋敷や宝石店、服飾店がある。さらにその下に平民たちが暮らすエリアがあり、私たちはここで暮らしている。
貴族と平民の住んでいるエリアは、きっぱりと区別されている。平民が貴族のエリアに行くことは禁止されているし、貴族がわざわざ平民のエリアに来ることも、あまりない。
「貴族の令嬢と平民の男性の恋、か」
「ロマンチックではあるよねぇ」
「ロマンチック……か? 身分違いの恋って、面倒なだけじゃねェ?」
こてんと首を傾げるレイに、彼の恋愛観は結構シビアなんだな、と不思議な感覚になった。考えてみれば、レイの恋愛事情を一度も聞いたことがない。……いや、聞く必要もないと思っていたんだ。だって、再会してからほぼずっと一緒にいて、彼に恋人がいるような気配を一度も感じたことがなかったから。
「トレヴァー?」
「いや、いろんな考え方があるんだなぁって」
聖騎士の先輩たちは、いろいろなことを話していたように思う。
神殿には男女共に夢見がちな人も多かったし、逆に神殿で暮らしている人同士で結婚することもあった。
神殿に預けられた子たちが
「私、聖騎士団に所属していたから、結婚式にも結構出席していたんだよ」
「結婚式?」
「うん。神殿の人たちが結婚するときに。みんな幸せそうな顔をしていて、とても微笑ましかった」
好きな人と生涯を誓うというのは、どんな気持ちになるのだろう? といつも疑問に思っていた。恋愛よりも
「そういや、遠巻きに結婚式を見たことあるかも。王都で」
「魔塔ではなかったの?」
レイは首を縦に動かす。
「魔塔ではないな。人と結婚するより、研究と結婚したいやつらが多かったし、あそこは」
魔塔でのことを思い出しているのか、口角を上げるのを見て、場所によって結婚の考え方も違うのかなと思考を巡らせる。
レイは視線を天井に移した。なにかあるのだろうかとつられて視線を上に向ける。――なにもない。
「……レイは、恋人欲しいなぁとか、結婚したいなぁとか、考えたことないの?」
「ない! 魔法を覚えるのが楽しかったし、魔塔にいると結婚なんて考える暇もなかったし」
私に視線を移し、彼はぱたぱたと手を振った。
レイなら誰かと付き合っていてもおかしくないと思っていたけれど……言葉として耳に入れると、なぜかホッとした。聖騎士団の仲間は、恋人や配偶者ができるとそちらを優先するので、訓練や討伐が終わったら急いで愛しい人の場所へ行く人が多かった。
きっとそれが普通のことなのだろう。愛する人に会いたい、とがんばれるのも素敵なことと思う。
「そういや、神殿で暮らす人が結婚すると、どうなるんだ?」
「神殿でそのまま暮らすか、神殿がお勧めする村や町で暮らすかを選べるよ。後者の場合、魔物に襲われないように聖騎士団が護衛して送るんだ」
「へー、そうだったんだ。まぁ、どっちにしろ第二の人生スタートって感じなんだな」
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