お見舞い
すべてを美味しくいただいて、料金を支払ってから宿屋を出る。聞き込み調査をするために街の人たちに声を掛けて、事件のことを聞いてみた。
「ああ、なんだか五人目の被害者がでたらしいな」
「はい。どんな人だったのか、わかりますか?」
「いや、あんまり。……兄ちゃんたち、冒険者か? 衛兵と協力してんのか、がんばれよ」
ぽんぽんと背中を叩かれて、こくりとうなずく。いろんな人たちに話しかけ、事件のことを聞き込むこと数時間。――被害に
「あの、私たちも行っていいですか?」
「へ? ああ、まぁ……良いんじゃないですか?」
「では、少々お待ちください」
少し離れたところにいたレイに声を掛け、被害に遭った人のお見舞いに行くことを伝えると、彼は「わかった!」とすぐに駆け寄ってきた。
「ええと、じゃあ病院に行きますよ」
「はい、お願いします」
「命は奪われてないって聞いているけど、大丈夫なのか?」
レイが小首を傾げながら
「まぁ、意識はあるし……。呆然とはしていたけど」
襲われたことがショックだったのだろう。
「あいつ、結構美男子でね。髪の手入れもすっげー気を使っているやつだったんですよ。その自慢の顔と髪がズタボロになっちゃって……ちょっと……いや、かなり気落ちしているんで、話を聞けるかどうかはわかりませんよ?」
どうやらこの人は一度、被害者に会ったらしい。今朝森の中で倒れているところを誰かに見つけてもらい、病院に運ばれてから連絡が来たのかな?
「会ったのか?」
「ええ、午前中に数分だけ。必要そうなものを持って来て欲しいって頼まれたんで、いろいろと持ってきました」
左手に持っている荷物を見せてくれた。入院に必要なものが入っているようで、何日分必要なのかわからないから、多めに持ってきたと話してくれた。
「あ、ここです。病院」
王都で一番大きいと言われている病院だ。彼はスタスタと歩き、中に入っていく。それを追うように私たちも付いて行く。……そういえば、病院に入るのは初めてだ。
白い壁には額縁に入れられた絵画が飾られ、どことなく懐かしさを感じる――あ、神殿か。神殿のように思えるんだ。
事件に遭った人たちは、それぞれ個室を与えられていると教えてくれた。長い廊下を歩き、ぴたりと足を止める。
「おーい、大丈夫かー?」
軽くノックをして、扉を開ける。白い壁、白い床、白い天井。辺り一面、真っ白の部屋。ベッドが窓際にあり、そこにひとりの青年が横になっている。視線だけをこちらに向けた。顔にも包帯が巻かれていて、痛々しい。
「これ、入院中に必要なもの。揃えたつもりだけど、足りなかったら連絡くれ。あと、なんかお前と話したいって人がいたから、連れてきた」
くるりとこちらを振り返り、手招く姿を見てから中に入る。
「こ、こんにちは」
「どーも、冒険者ギルド『カリマ』に所属しているものです」
ベッドに近付いて挨拶をすると、彼はじっと私たちを見てから、視線を友人に戻した。
手当てはされているようだが、あまりにも痛々しい姿に胸が痛む。
「……あの、失礼します」
顔を身体も包帯で巻かれている。かろうじて見える目元の近くにあざが残っている。首には絞められたような痕があった。髪の毛も切られていて長さがバラバラで、抵抗しようとしたのか、耳には鋭利な刃物で傷つけられた痕もある。
すっとその場に
「え……?」
彼の友人が信じられないものを見た、とばかりに声をこぼす。
「……すご……」
「これ、あとで医者に怒られないか?」
「怒られる、かな? でもやっぱり、怪我人を放っておけないよ」
立ち上がり、眉を下げて微笑む。レイは「仕方ないやつ」と呆れたように笑っていた。
「い、痛くない……!」
むくりとベッドで横たわっていた男性が起き上がる。顔の包帯を取り、腕の包帯も取って傷痕が癒えていることにぱぁっと表情を明るくした。そして、ぐりんと私のほうに顔を向け、キラキラとした瞳で見上げられる。
「ありがとうございます、ありがとうございます! 痛みが酷くて喋ることもままならなくて! 本当に助かりました!」
ベッドから抜け出して、ガシッと手を握られる。ぶんぶんと勢いよく手を上下に振っていると、レイがぺしっと彼の手を叩く。
「興奮すんなって。あー……でも、怪我は治っても、髪はそのままか」
叩かれたからか、ぱっと手を離し、労わるように叩かれた手の甲を
「ああ、せっかく綺麗に伸ばしていたのに。残念です……」
「あの、すみませんが、襲われたときのことを教えていただけますか?」
私が問うと、彼はこくりと首を縦に振ってくれた。
そして、ベッドに腰を掛けると、なにがあったのかを話し出す。あれほど痛がっていたから、もしかしたら私たちが最初に彼の話を聞くのかもしれない。
「――実は、あの日……恋人に会いに行っていたのです――」
彼はそう語り出し、私とレイは顔を見合わせた。彼の友人も、目を丸くして「お前恋人いたのか!?」と声を上げていた。
「ああ。だが、誰にも言えない恋人なんだ」
「ま、まさか不倫関係……?」
「いや違う、そうじゃない。――彼女は、貴族なんだ」
切なそうに目元を細めて視線を落とす男性に、私は首を傾げる。
「貴族の女性と……?」
一体どうやって知り合ったのだろう。……いや、今はそれを
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