動き出す、歯車 5話

 冒険者ギルド『カリマ』には、現在三組の冒険者パーティーが所属している。


 創立メンバーは五人。


 ギルド長のエイブラムさん、受付嬢のコートニーさん。そして三人パーティーのヴァージルさんとシアドアさん、ローズさん。この五人は元々知り合いだったらしい。


 それから冒険者としてどのギルドに所属しようか悩んでいたレイ。彼がここに腰を据えると決め、私を迎えに来た。それまで、あちこちのギルドに顔を出していたようだが、ここが一番良さそうと考え、さらにスカウトされたことで所属するのを決めたとのこと。


 ちなみにこのギルドに所属した理由は、『トレヴァーでもすぐ慣れそうだから』と聞いたことがある。レイ本人に。


 私も『カリマ』に所属し、その半年後に四人でパーティーを組んでいるジェレミーたちが加入した。


 ジェレミーたちは私たちよりも若く、十代のパーティーだ。私たちのことを先輩として慕ってくれている。ついでに言うと、私が回復魔法を掛けたのもジェレミーだ。魔物に襲われ、重傷だったのを放っておけず、回復魔法を使った。


「――いや、その前に事件のことについて、話し合うほうが先だろう」


 こほんと咳払いをしてから、エイブラムさんが重低音の声を発する。その声に、ジェレミーは「あ、そうだった!」と後頭部に手を置いて、へにゃりと微笑む。


「コートニー」

「はい、ギルド長」


 エイブラムさんは彼女の名を呼ぶ。すると、心得ているとばかりに立ち上がり、私たちを見渡す。


「――今月に入ってから、男女問わず王都で暮らす人々が襲われる事件が発生しています。先々週と先週はふたりずつ、そして今週ひとり。計五人が被害にっています」


 丁寧に教えてくれるのは、私とレイが先月末から王都を離れていたからだろう。その心遣いに感謝しながら、コートニーさんの言葉を待つ。


「幸いなことに、命までは奪われていません。しかし、王都の人々は早期の解決を願っています。そこで、衛兵は我々にも協力要請をしてきました」


 さっき、エイブラムさんが読んでいた手紙。きっとそれに書かれていたのだろう。


「――が、『カリマ』に所属しているレイモンドとトレヴァーが衛兵に疑われましたね」


 きらり、と彼女の眼鏡が光る。くいっと眼鏡を直すように動かす。私たちを見る彼女の瞳は、慈愛に満ちていた。


「私たちは彼らが犯人ではないことを知っています。衛兵よりも先に犯人を捕らえ、彼らの度肝を抜かせてやりましょう!」


 ぐっと拳を握り熱く語るコートニーさん。


 シアドアさんがぱちぱちと拍手を送るので、気付けばコートニーさんを除く全員が、彼女の言葉に拍手をしていた。


 信じてくれていることへの、感謝も込めて。


 コートニーさんは熱くなっていたことに気付いたのか、ほんのりと頬を赤らめて椅子に座った。続いて、ギルドマスターのエイブラムさんが立ち上がる。


「コートニーの言う通り、衛兵からの協力要請があった」


 淡々とした口調で、私たちの顔を見渡しながら言葉を続けていく。


「うちのギルドメンバーを疑いながら、な」


 いつもよりも声をワントーン落とし、怒りに耐えているような声がギルド内に響き、しんと静まり返った。


「やつらに目に物言わせてやろうじゃないか!」


 私とレイ以外が立ち上がり、右手に拳を作り天にかかげ「おおーっ!」と叫ぶ。大合唱だ。その声に圧倒され、思わず例を見ると彼は「盛り上がってんなぁ」と心底楽しそうに微笑んでいる。


「んで、どうやって犯人を捜すんだ?」


 ヴァージルさんが問うと、エイブラムさんに視線が集まる。彼はその視線を受けて、口を開いた。


「地道に聞き込み調査からだろう。急がば回れ、着地に犯人の手掛かりを掴むため、各々調査せよ」


 言い終えると、エイブラムさんは椅子に座る。


「じゃあ、話がまとまったところで……、ギルド創立の話をお願いします!」


 ジェレミーが期待に満ちた瞳で、創立メンバーの顔を見つめている。


「知りたいか、それ?」


 目をまたたかせて首を傾げるのは、ヴァージルさんだ。


「だって、全然想像できないっスよ。どうやって知り合ったのかも、さっぱりわかりませんし」

「そもそも、このギルドって創立何年目ですか?」

「あ、おれも知りたい、それ」

「わたしも……」


 後輩メンバーたちが次々と手を上げて、創立メンバーに声を掛ける。その問いに答えたのは、ローズさんだった。


「そうねぇ……確か五年くらい、だっけ?」


 しかし、自分の記憶に不安があるのか、コートニーさんに顔を向ける。彼女は少し考えるように黙り込み、それから口を開く。


「なにを持って、『創立』になると思いますか?」

「え、そりゃあやっぱり、メンバーが集まったときじゃない?」

「いや、ちゃんとこの建物でスタートしたときじゃないか?」


 どうやら人によって創立の基準が違うようだ。ヴァージルさんたちが話し合っている間、眉を下げて微笑むコートニーさんと、創立したときを思い出しているのか、腕を組んで目を伏せているエイブラムさん。


「オレが入ったのは二年半くらい前か?」

「私は一年半前」


 レイが懐かしむように目元を細めて、人差し指と中指を立てる。後輩たちはワクワクとしたような表情を浮かべていた。


「冒険者ギルドとしてなら、四年半くらいじゃないか?」

「あの、……どうやって知り合ったんですか?」


 ギルドの最年少、デリアの問いかけにエイブラムさんが目を開けて視線を動かす。


「五年前、大型魔物討伐のときに、臨時で組んだパーティーだ」

「え、大型魔物? 五年前?」


 五年前の大型魔物討伐といえば、聖騎士団にも協力要請がきていた。


 その大型魔物は――ドラゴン。


「……もしかして、東の丘でした?」

「ああ。知っているのか?」

「ええと、サポートとして、負傷した冒険者たちを治療していました」


 五年前――十六歳の頃。神力しんりょくの強い聖騎士たちが集められ、負傷者を治療するために作られたチームの中に、私もいた。

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