2章:王都
依頼帰り
――そして、それから冒険者として生活を始めて一年半ほど経った。
私は二十一歳になり、レイは二十二歳になった。成人後、すぐに神殿から王都、クレージュに移動して、彼が元から所属していた冒険者ギルド『カリマ』に、私も所属することになった。職業は神殿で聖騎士として働いていたからという理由で『
王都にはいろいろなところに冒険者ギルドがあり、そのうちのひとつに所属してから、私を迎えに来たようだ。
最初に案内されたとき、小さなギルドで驚いた。レイが所属するなら、もっと大きなギルドだと思い込んでいたからだ。
よくよく話を聞くと、どうやらずっとパーティーを組まないかという、お誘いはたくさんあったらしい。だが彼は私との約束を覚えていて、どんな人に声を掛けられても断っていたとギルド長が教えてくれた。
本当に私が成人するまで待ってくれていたのだと理解し、そのことに心の中がほわほわと温かくなる。
ギルド長に暴露されたとき、レイは珍しく顔を真っ赤にさせて口を塞いでいた。懐かしいなぁ。くすりと笑い声をこぼすと、前を歩いていたレイが振り返った。
「なーに、にやけているんだよ」
「いや、ちょっと……初めて冒険者ギルドに行ったときのことを、思い出して」
「ああ、あれなー……。本当、参ったぜ、ギルド長には」
やれやれとばかりに首を振る。そして、彼は空を見上げてぽつりと言葉をこぼす。
「結構日が暮れてきたな。急ぐかー」
「そうだね」
夕日が辺りを真っ赤に染めている。もう少しで一番星が見えるだろう。その前に、王都にたどりつけば良いのだけど。
依頼を受けた帰り道、魔物を討伐してのんびりと歩いていた。
「それにしても、魔物には容赦ないな、お前」
「ああ、うん……。聖騎士団に所属していたときも、同じことを言われたよ」
相変わらず、対人戦は苦手だ。どうしても、痛みを思い出してしまうから。魔物にだって痛覚はあるだろう。だが、魔物は放っておけば人々に危害が及ぶ。それを黙って見ることは、できなかった。
「思ったよりも強くなってて、びっくりしたぜ」
「それは、私もだよ。レイの魔法を見たとき、感動したもん」
どうしても、彼と一緒に話していると、昔のような口調に戻ってしまう。
「ふふん。魔塔で『賢者』の称号を手に入れたからな」
両手を腰に添えてふんぞり返る姿を見て、ふふっと笑い声を上げてしまった。レイはどこかホッとしたように息を吐き、私に近付いて背中をバシバシ叩く。
「前衛と後衛で良いバランスだろ?」
「そうだね」
実際、そうだった。私が魔物の注意を引き、レイが魔法で仕留める。それか、レイの補助魔法で強化された私が、魔物を仕留める。
魔法が効く魔物、効きにくい魔物。それぞれに合わせた対策が取れるから、戦いやすい。
「魔塔って、補助魔法も習えるんだね」
「ああ。オレ、どっちの力も使えるからさ。回復魔法はトレヴァーのほうが得意だけど」
一度、ギルドメンバーのひとりが大きな負傷をしたときに、回復魔法を使ったことがある。後輩なんだけど、古傷まで治って両手で手をガシッと掴み、ぶんぶんと振りながらお礼を言われたことを思い出し、くすぐったい気持ちになった。
「あ、暗くなってきた。急いで戻ろうぜ!」
「うん!」
気付けば辺りは薄暗くなり、一番星が輝いていた。林道を駆けていると、ふと「きゃぁあっ!」と甲高い悲鳴が耳に届く。
「レイ!」
「なんかあったみたいだな!」
その声に、聞き覚えがあった。
いつもお世話になっている宿屋の看板娘。まだ九歳のメロディの声だと判断すると、レイがパチンと指を鳴らす。
「あっちだ!」
彼が先陣を切って走り出す。背中を追うように、私も走り出した。
私に気付くと、レイはすっと人差し指を向ける。もう暗くなってきた時間帯に、なぜあの子がこんな森の中にいるのだろうかと思考を巡らせた。
「……ぁ、ぅ……」
ブルブルと身体を震わせて、立ち尽くしている。魔物に囲まれているので、恐怖を感じていることだろう。
魔物――くにゅくにゅとした動きのスライムが、じりじりとメロディに寄っていく。
「ゃ、やだ、こないで……!」
涙声でぎゅっと目を閉じる姿を見て、思わず草むらから飛び出す。レイの「あ」という声が耳に届いたが、今はメロディを助けるのが先決だろう。剣を鞘から抜いて、スライムに近付く。
「あ……!」
目を開けたメロディが、私の姿を見て涙を滲ませる。助けが来たと思ったのか、安堵の息を吐いている。
「……まったく」
呆れたように呟き、パチンと指を鳴らすレイ。ふわり、とメロディの身体が浮いて、スライムの包囲網から救出した。
「見せないようにするから、そっちは任せた!」
「ありがとう!」
背後でレイが魔法を使っているのがわかる。恐らく、彼女に睡眠の魔法を掛けているのだろう。
ゆっくりと深呼吸をしてから、剣を構え直してスライムを斬りつける。自身の
スライムは神力を宿した剣によって、斬りつけられたところからじわりと溶けるように煙を出し、
メロディを囲んでいたスラムは六匹。きちんとすべてを倒し、核を回収してからレイに近付くと、彼はメロディを抱き上げた。
「どうやら、花を摘みに来ていたみたいだ」
すやすやと寝息を立てている彼女の手には、しっかりと花が握られていた。でも、どうしてこんな時間に……?
「心配しているだろうから、早く戻らないとね」
「だな」
私たちは駆け足で王都に戻る。心配しているであろう、メロディの両親をすぐに安心させてあげたかったから。
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