第5話 続・悪友とラーメン屋
「――よく言った悠介!!」
篠田くんからのスタンディングオベーション。
響いてたかぁ~……。
まあ、今までの行動から篠田くんがちょっとおかしいのは分かってたよ。
衝撃なのは悠介くんのほうだよ、知的でクールで静かな優しさを持つイメージだったのに……。
「確かに。このままではいけない」
「今やらないで。いつやるんだ」
なんで陽一と斗真も感心してるのよ。
というか、「ラーメン食い行こうぜ」って誘ったの悠介くんでしょ。
「教授、質問があります」
篠田くんから手が上がる。
「――何かするって何を?」
「私に策があります」
聴衆はまたもや固唾をのんで悠介教授の答弁を待つ。
「合コンです」
その言葉に立ち上がったのは、陽一だった。
「早まるな悠介ぇぇぇ!」
と声をあげ、悠介くんに掴みかかる。
「教授に何をするんですか!」「手を放してください!」と必死に悠介くんを護る斗真と篠田くん。
陽一はもみくちゃにされながら訴える。
「お前らは……。お前らは、悠介の女性耐性を知らないから平然としていられるんだぁっ!」
悠介くんは図星を突かれたようで俯いてしまっている。
悠介教授のおつきの2人も少し熱が冷めたようだ。
「女性が苦手なのですか、教授?」
篠田くんが優しく尋ねるが、教授からの返答はない。
陽一は息を整えてから、皆を落ち着かせるように話し出した。
「お前ら、疑問に思わなかったか?
悠介は、俺らみたいな馬鹿にも優しくて、紳士的で頭もいい。スタイルだってシュッとしていてかっこいい。なんで彼女がいないんだって……」
うん。そのイメージがたった今音を立てて崩れたけど……。
「――俺は悠介と中学からの仲だから分かる。
悠介は、女子を目の前にしちまうと頭をフル回転させちまう。心ではわかってても体が勝手に動いちまうんだ。それで、女子との会話が苦手なんだ」
悠介くんは「ああ。そうだな……」とつぶやいた。
陽一はまだ顔を上げないままの悠介くんの肩に手を置き、優しく言った。
「なあ、悠介。初対面の女子たちと短時間で仲良くなる合コンはハードルが高いって。お前の魅力を十分に活かせる方法がきっとある」
「だが、そんなの思いつかないよ」
悠介くんの言葉をきいた陽一は微笑み、椅子を静かに引いた。
「――そのために、俺らがいるんだろ」
悠介くんの顔がやっと上がった。
「作戦会議といこう!」と斗真。
各々椅子に座りなおして向かい合う。
「ここは男女別学だけど、中学はみんなバラバラだ。みんなの中学時代の話を集めれば、解決への糸口も見えるはずだよ!」
篠田くんの提案に全員が目を合わせ、頷く。
終始「何をやってるんだ」と呆れていたのは事実だが、私自身も実はこういうノリは嫌いじゃない。
悠介くんにも笑顔が戻ってきたし。
「皆、中学時代女子とはどんな関係だったんだ?」
陽一がそう聞くと、斗真が口を開いた。
「俺は……、中二の時に一年間付き合った彼女がいたな」
賑やかだった教室が再び静まり返った。
次の瞬間――
「はああああああっ!?いたのかよ貴様アッ!」
「悠介!落ち着いて!座るんだ!」
「い、いや俺だって『篠田くんかわいい』って言われたことある」
「篠田、だいぶグレード下がったな……」
「こ、こいつ彼女いたの黙ってたんだぞ、陽一!落ち着いてられねえよ!」
「す、素晴らしいことじゃねえか!斗真を妬んで俺たちに彼女ができるとでもいうのか?おめでとうといってやれ!」
「いや、3年前に別れてるんだけどね?」
ぎゃいぎゃいと過去最高のやかましさに包まれる教室。
少しほとぼりが冷めたところで、またもや爆弾お投下したのは悠介くんだった。
「つーか、陽一、お前にも仲のいい女子がいるよなあ!?」
「「な、なにいいいいっ!」」
「だ、誰のことだよ……」
悠介くんを筆頭とした3人の追及に目をそらす陽一。
これは思い当たる人がいる顔だ。
「
怨念のような悠介くんの声。
今の彼にかつてのようなクールなイメージはもう見られない。
「いや、あいつは幼馴染なだけで……」
「ただ付き合いが長いだけだとあそこまで仲良くなれませんーー!」
陽一の弁明も悠介くんには届かない。
「お、おい。そんないいかんじなのかよ、陽一はよ」
斗真は興味津々といった様子だ。
「家が近くて幼稚園からずーっと一緒なんだよなー?
中学の時3人で話してたら俺を取り残して桜色の空気間作ってたもんなー?
つーか、ここの高校だよな、宮守さん?」
悠介くんはもうブレーキがかからなくなってしまった。
「あ、宮守さんって美術創作部の?」
なんで篠田くんはそんな知ってるんだよ、気持ち悪いな。
もう篠田って呼ぼうかな。
「え、どんな感じの人なの?」
「かわいいよ」
無邪気な斗真と即答する篠田。
なんで悠介くんより回答速いんだよ……。
「いいなー!陽一いいなー!」
「え、どういうところが好きなの」
「俺好きって言ってないだろ!」
テンションが上がる斗真と篠田。
否定する陽一の頬もほんのり赤いのが見て取れる。
「でも斗真とか篠田に紹介してって言ったら陽一は嫌なわけでし……」
「あ、ほら!!もう6時半だって、ラーメン屋ギリだぞ、な!悠介、な!」
陽一の強引な切り上げで男子どもはぐだぐだ言いながら荷物をまとめ、急ぎ足で教室を出た。
階段を下りる4人をふわふわと追いかけながらもいまだに笑いを引きずっている自分に少し驚く。
こんな楽しいの、何年ぶりだろ。
下駄箱で靴を履き替えている陽一に「ラーメン楽しんで。じゃ、また明日ね」とこっそり声をかけた後も、私はしばらく夢見心地だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
怜奈の声に「おう」と小さく返すと、俺――陽一は3人に連行されるように昇降口を出た。
外はもうすっかり暗くなっていた。
4人でいつも行くラーメン屋は学校からは少し遠く、男子用の通用門よりも正門の方から出た方が近い。
「やべえ、また店長におこられるぞ」と斗真が楽しそうにいい、皆でチャリと一緒に正門まで走る。
もうすぐ正門だというところに一人の女子生徒が見えた。
長いきれいな髪に女子にしてはかなり高い身長。
めったに会わないのに今日に限って会うのかよ。
目が合うと詩織――
前を走る3人に気づかれないように俺も手を振り返す。
「どうした、陽一、急ぐぞ!」
悠介が振り返る。
「なに、宮守さんいた?」
なんでこんなに鋭いんだ?篠田は。
「いないいない、行くぞ!
俺がラーメン屋の名前を叫ぶと、全員一斉にチャリを漕ぎ出した。
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