第7話 初勝利と少し『ごめん』と中ボス登場
「我が生命線を糧とせよ、スキル『生贄』!」
「鼓動を上げる、スキル『強固な心臓』!」
二人でスキル名を唱えた次の瞬間、美月は、体を赤い闘気のようなものに包まれ、俺の左手から発生した光の線は、美月の背中に繋がった。
「うわっ!なんか背中、気持ち悪い!」
「美月…その反応はやめてくれないか?一応俺のスキルだから、傷つく。」
「あっ…いや、えっと…ごめん。でも、元気が湧いてくる気がする。」
特異スキル「生贄」が発生させた、光の線は美月に繋がると、魔力や体力を美月に送り込んでいるのか、俺はなにかを体内から吸い上げられるような感覚に襲われる。
「ミツキ!トオル様の特異スキルであなたは今、最強です!全部やっちゃって!」
そう語るメルティーさんに、
「了解っ………!」
美月が応じ、足を踏み出すため、腰を下ろしたと思ったら、一瞬にしてハイドウルフ三匹を、豪快な一振りで壁にたたきつけた。
キャンッ!
壁にたたきつけられたハイドウルフ達は、血を吐きながら、意識を失っていた。味方がやられた、ハイドウルフは美月に
しかし、美月は懐に入り込むことを許さず、間合いに入った狼たちを順々に打ち払う。ハイドウルフを圧倒する美月。鬼神の如き、彼女の様子に、俺は、圧巻された。
「すごい…すごいぞ!美月!」
「っ…それやめて!集中きれる!」
俺の称賛の声に、美月はこちらをちらっと見たと思うと、耳を赤くし、俺を叱ってきた。ただそんな隙を見抜いたのか、一匹のハイドウルフが美月の視覚外から襲い掛かっているのが見えた。
「後ろ!美月!」
「ちょっ…」
俺の声で振り返った美月だったが、防御の態勢は間に合っていない。危ない美月に足が出るが、間に合いそうになく、俺は息が止まる。
「セイクリッド・アーマー!光の鎧よ、彼女を守れ!」
しかしまたしても、メルティーさんの魔法が間一髪の所で、美月を守った。光の層が、美月に纏わり、ハイドウルフの牙は、肌に届いていなかった。
「ミツキ!イチャイチャしてたら怪我しますよ!」
「ごめん、メル…でもイチャイチャはしてないから!」
咄嗟に美月を呼び捨てで呼び、魔法で守ってくれたメルティーさん。彼女に俺は、美月を助けてくれた感謝と、二人が呼び捨てで呼び合うような関係になっていたことに対する驚きを覚えるが、
「トオル様も、今のミツキに変な言葉をかけないでください!」
「ごめんなさい…」
美月の集中を途切れさせた俺は、しっかりメルティーさんに叱られた。
そして、改めて集中を取り戻した美月は、ハイドウルフの方を振り返り、
「これで終わらせる!」
実際にそう言った数十秒後、ハイドウルフの体が、いくつも地面にころがっていた。
「美月やったな!」
「まぁ…これぐらいなら。当然…痛っ…」
「美月!!大丈夫か!?」
特異スキル「生贄」を解除し、ハイドウルフを倒し終わった美月に声をかけようと俺が近づくと、美月は、右足を抑え、しゃがみこんだ。近くに駆け寄り、美月のことをよく見ると、右足首が青く腫れかけていた。
「ねん挫したのか?」
「ちょっと…張り切り過ぎたみたい…っ………」
しゃがみこんだ美月は、心配させまいと、笑顔を作るが、眉がハの字に曲がっており、痛みを隠しきれていなかった。
「私は…大丈夫だから…」
「ダメだ!!美月の大丈夫は、大丈夫じゃないってのは前から知ってる。初めて遊びに行った時も、靴擦れ隠して、歩けなくなっても、大丈夫って言ってただろ…」
「…そんなことまで…覚えてるんだ…」
俺は、彼女の無茶しがちの性格を考慮して、強めに、美月を制止した。いつもなら、美月にこれほど強気に出ることも、正面から見つめ合うこともできないのだが、今回だけは気にならなかった。
美月が本気で心配で、そんなことは些細なことだと思えていたから。
「メルティーさん!!タオルか何かありますか?もしあるなら、そこの水場で濡らしてください。」
「はい!分かりました。」
「俺は、美月とこの女の子を一旦安全なところまで運びます。」
俺は、ハイドウルフに襲われ、メルティーさんの後ろに隠れていた少女に目配せし、後ろを付いてくるように促す。
「お兄さん…お姉さん、大丈夫?」
「あぁ…大丈夫、俺が責任もって安全な場所まで送ってあげるから。さっ…こっち。」
美月の心配をする少女だったが、俺が大丈夫だと呼びかけると少女は素直に俺の後ろをついてきてくれた。
「トオル様。さっきまで休憩準備していた所があります。そちらまで行ったら、恐らく安全です。お二人をお願いします。私もすぐに追いつきますから。」
「ありがとうございます。」
メルティーさんが、患部を冷やすためのタオルを腰にかけていたカバンから取り出し始めた一方で、俺は美月の前にしゃがみ、背中を差し出す。
「ほらっ…乗って!」
「ちょっ…!徹…恥ずかしいって…」
「言ってる場合じゃないだろ。ここにいたら、またハイドウルフが来るかもしれない。」
「でも………はぁ…分かった…」
恥ずかしそうに美月が、俺の首に腕を巻き付けたのを、確認した後、俺は彼女の弾力有る太ももに手を通し、美月をおんぶした。
「あんまり…しっかり持たないでよ…」
「危ないから、そんなことできるかよ…ちょっとだけ我慢してくれ。」
「(そんなかっこいいところ見せないでよ…)」
「ん?何か言った?」
「んん…何も…」
美月のつぶやきが気になったが、俺はメルティーさんが休憩の用意をしてくれていた場所を目指して、美月をおんぶし、少女と二人で歩き始めた。
おんぶされている間、美月は基本的に何も話さなかったが、突然、
「あのさ…徹」
聞いたことないほど、か細い女の子らしい声で話しかけてきた。そんな声に俺は、少し鼓動が早くなるのを感じる。
「ごめん…あんな態度して…」
「えっ…いや、全然…俺は大丈夫だから…」
美月から出たのは、謝罪だった。転移前も、転移後も俺は、美月に冷たい反応をされるのは、慣れていたからこそ、美月自身が自分の態度について、改めて謝ってきたことに俺は驚くと、同時に少しうれしく思う。
「…ただこれだけは言っておくんだけど。私は、あなたの裏切りを許したわけでも、許せるわけでもないのは分かってほしい。」
「うん…」
ただ美月の声から、依然として俺に対する憎しみが、全て消えたわけではないのは分かるから、俺は、大手を振って、喜びはしない…
「けど…こっちに来てから、徹が頼りになってるのは確かだし…徹に対するあの態度は、大人げなかったって反省してる。」
「うん…」
「だから…」
それでも…俺は大手を振って、喜びはしないけど…喜んじゃダメだって分かってるけど…
「これからも一緒にいてくれると助かる…徹。」
「…分かったっ…!俺で良ければ一緒にいるよ…」
「ありがとう…」
笑顔が零れ、涙が溜まるのを抑えられない。
だって、美月の方から一緒にいていいって言ってくれたんだから。転移前だったら、ありえない。美月と俺が同じ空間を共有していいなんて、こんなにうれしいことがあるのかよ…
「お兄さんたち、私がいること忘れてない?」
「「あっ………」」
空気を読んで、黙ってついてきてくれていた少女に突っ込まれ、俺たちの間に気まずい空気が流れた。
俺と美月が言葉を交わしたのは、これだけだったが、俺は満たされた気持ちで、メルティーさんが設営してくれているという休憩所に向かった。
しかし、そんな俺の浮かれた気持ちは、休憩所にたどり着いた時、無に帰した。
「なんで………」
なぜなら、メルティーさんと美月が用意していたであろう、白い敷物はびりびりに引きちぎられており、歪な形に変形したランプが地面をころがっていたから。安息の地だと思って、怪我人である美月を運んだ休憩所には、自分の三倍以上はある巨大な人影が待っていたから。
「オマエタチ、トオル、ト、ミツキ?」
俺たちの名前を呼ぶその人影は、大木の幹のような腕に、鈍重な木槌を携え、俺たちを覗き込んでいた。
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