第3話 王様と幼馴染と四角関係!?

「こちらで、エルディア王がお待ちしてます。」


 そう紹介するメルティーさんだったが、俺たちは話半分にしか聞けていなかった。そのアホみたいに高い天井と、白と金を基調にした壮大な城に圧倒されていたから。

 こんなの〇ィズニーランドでしか見たことないぞ…


「お二人とも大丈夫ですか?」

「えっ………と俺は大丈夫…」

「………」


 美月は大丈夫じゃなさそうだったが、仕方ない。俺も、ミルフィーユ状に大量のろうそくが立られているシャンデリアを見た時は、ビビったし、城の中に平然と噴水がついていた時は言葉を失いかけた。


「安心してください。城はこんな感じですけど、当の国王は、正直あれですから。」

「あれ?」

「まぁ…そのあれですから…」

「………?」


 国王を『あれ』と表現したメルティーさんは、何とも言えない苦笑いを浮かべていた。国王が『あれ』?そんなに厳格な方なのだろうか?


「とにかく、一見すごそうなだけですから、そんな心配いりませんよ。それでは行きましょう!」

「えっ…あっ、はい。」


 そう押し切ったメルティーさんは、その体格にはそぐわない大きい王の間への扉に手をかけ、俺たちも、恐る恐るそれに続くことにする。


 扉を開けた先は、これまで以上に開けた空間で、様々な彫刻や絵画が飾られており、光沢のある赤のカーペットが部屋の中心に設置してある玉座まで続いていた。


 そしてその玉座には、宝石の散りばめられた王冠やマントに身を包んでいる、意外にも自分たちと同い年ぐらいに見える青年が腰かけていた。王冠からは、短く整えられた白髪がはみ出ており、メルティーさんの存在に気づいた様子の彼は、地域がらなのか、メルティーさんと同様の青い瞳をこちらに向ける。


「エルディア王、例のお二人をお連れしました。」


 そんな国王に対して、メルティーさんはさっきまでの明るい表情から打って変わって、厳かな面持ちになっており、玉座の前で跪く。


「おいっ…美月…俺たちもしたほうがいいんじゃ…」

「あっ…うん」


 想像以上に若い国王で、一瞬気が抜けそうになったが、メルティーさんの動作に俺たちも続かんと跪いた。


「ご苦労、メル…ティー、お前には神の御加護があることだろう。」


 背丈や顔つきは同年代に見える青年だったが、睨みの効いた顔で謝辞を述べる姿には、素人目からでも、王としての風格を感じられた。ただメルティーさんの名前を呼ぶ際に、少々詰まったのが気になるぐらいで。


「そして異世界人ミツキ、トオルよ。我が城への訪問感謝する。」


 王は、さきほどまで、メルティーさんに向けていた視線をこちらに移し、迫力のある顔がこちらを向く。その迫力に気押されてしまったのか、


「どっ、どうも…」


 俺は、つい気の入ってない返事をしてしまう。


「どうもって、徹、王様相手にそれはないんじゃ…」


 そんな俺に対して、美月は呆れたように小声で忠告してきた。


「あっ…まずかったか、こういうのってどう答えるのが正解なんだ?」

「ご機嫌麗しゅう?」

「美月………それは、なんか違くない?」


 こんな風に、美月の長い睫毛が当たりそうなくらいの距離で、ひそひそと語り合うなか、


「本来であれば、王として、茶の一つでももてなしてやりたいが、国を守る主として、確認しなければならないことがある。少々付き合ってもらうぞ。」


 そう続けるエルディア王は、顔を一つも動かさず、こちらをじっと覗き込んでくる。メルティーさんは心配しなくてもいいと言っていたが、王の迫力で俺の顔に、つい汗がにじんできていた。


「では、ミスティア王国、国王エルディア・モルドレッドが問う。お前たち、ミツキ、トオル二名は、その能力をもってして、我が国の脅威とはならないことを誓うか?」

「えっ………」


 俺の緊張とは裏腹に、予想していたどの選択肢でもない王の発言に俺は少し驚いてしまった。俺たちが国の脅威になる?何を言ってるんだ?


「どうした?誓えないのか?」

「いや…失礼ですが、そもそも俺たちが国の脅威になれるわけが…」

「私が聞いているのは、なれるかどうかではない。誓うかどうかだ。」


 ただ王の様子から冗談の類のものは受け取れず、本当に俺たちが国の脅威になり得ると信じている様子だった。


 以前メルティーさんから異世界人がこちらに来る時には、特殊な魔法やスキルを与えられると言われていたが、たかが17歳の小僧っ子二人に国を転覆できるほどの力が与えられるとは到底信じられない。


「あの…」

「どうした!誓うのか、誓わないのかどっちだ!誓えないのであれば、お前たちが自らの持っているスキルについて知る前に処刑する!」


 ただ王はそれでも依然として、厳格な態度を崩すことなく、俺が言いよどめば、言いよどむほど、表情を険しいものに変えていった。俺は異世界人としての能力について未だに信じられなかったが、これ以上、俺や、なにより美月の安全を損なわない為に


「誓います!誓います!」


 王へ、戸惑いながらではあったが、誓いを立てる。そして俺の誓いを聞き届けた王は、標的を美月に変えた。


「よし。次はミツキだ、そなたも誓えるか?」

「えっと…はい、私も誓います。」


 しかし王の美月への問い詰め方が俺の時と比べて、明らかに弱かった。俺は美月をおびえさせることにならなくて良かったと安心する一方で、なぜ俺だけ、あんなにきつい言い方だったんだとむかっ腹がたちかけるが、ここで蒸し返す事も面倒なので、心のうちにしまうことにする。


「よろしい。これでトオル、ミツキ二名を我が国、ミスティア国民として認め、ミスティアに在住することを許可する。」

「あぁ、なるほど…」


 俺は、王の発言から、いままでの王の態度やこのやり取りの意義に納得した。今まで異世界人の俺たちを問い詰め、危険性の有無を確認したのは、国として、俺たちが安全かどうかを見極めるのと同時に、俺たちがこれから、ここで生活することを国として保障するためでもあったのだ。


 にしても、あの贔屓はなしだろ…美月が美人だからって甘過ぎるって…


「両名とも、確認すべきことは終わった。楽にしてよい。」

「えっと…ありがとうございます。じゃあちょっと立たせてもらっても?美月もどう?」

「あっ…うん。」


 そうして俺は跪いていた体を起こした後、美月の手を引っ張り、立ち上がらせる。王への当てつけとして、ちょっとした美月とのスキンシップを画策しながら。


「あのさ、徹。一つだけ気になってることがあるんだけどメルティーさんが言ってた『あれ』って結局なんだったんだろうね?」


 しかし引っ張り上げられた美月は、俺と手をつないだことよりも、メルティーさんが王の間へ入る時に言っていた言葉について思い出している様だった。


「確かにな………あの若い見た目には、驚いたけど、中身は割と想像通りの厳格そうな王様って感じだったし。」

「そうなんだよね…」

「まぁとにかく、『あれ』が何なのかはわからなかったけど、無事に終わってよかった。美月は大丈夫だったか?」


 たださっきまで、王からの重圧に晒された俺は、『あれ』についていろいろ考えることが面倒くさくなっていたため、話を変えようと、俺の脳内が自動的にはじき出した話題は、美月についてだった。


「ん?まぁ…特に問題はなかったよ?でもなんで改まって、そんなこと聞くの?」


 しかし『あれ』について考える以上に、この手の話題は俺たちにとって、いや…主に俺にとって悪手だった。


「いや、その…まぁ美月が、大丈夫だったらそれでいいんだよ…」

「………あっそ」


 そんな俺の返事が煮え切らないことに、美月は眉をひそめ、不機嫌な表情になってしまった。


 ごめんって…つい心配しちゃったんだから、仕方ないじゃないか。加えて、真正面からお前のこと、心配だって言う訳にもいかなかったんだから。


「………という訳で、爺や。」


 心の中だけで、美月に対する謝罪をしていると、王は、王冠をどこからともなくやってきていた、かなり歳を食っていそうな老紳士に預け、


「はい。」

「もういいよな。」

「問題ありません。エルディア坊ちゃま」

「やったぜ!終わったぁああああああ!」

「えっ…」


 顔を思いっきり、王の顔から年相応な男の子の快活な表情に変貌させた。


「お疲れさまでした。トオル様、ミツキ様。」


そして、王との押し問答を黙って聞いていたメルティーさんも安堵した顔で声を掛けてくる。


「これも一応、国としての正式な手続きなんです。前もって、説明することも禁じられていていまして…こんな形になってしまい、本当にすみません。」

「そういうことだったんですね。メルティーさん、急に喋らなくなるから、唐突に意地悪になったのかと思いましたよ…」

「トオル様、本当にごめんなさい!何でもしますから!」


少し意地悪な返答をすると、メルティーさんは本当に申し訳なさそうな顔をしてくる。本当に油断すると可愛いらしいなこの人…。


「ふっ…冗談ですよ。」

「トオル様!あまりそういう顔を私に向けると…」

「………んぅうう!」

「うわっ!急にどうした、美月!」

「なんでもない!」

「えぇ…」

「ほらっ、言わんこっちゃないです…」


 美月が唸りを放つ。俺なんか悪いことした…んだろうな…とりあえず、分からんけどごめんよ、美月。


「ほんとごめんな、二人とも。俺もこんなことしたくなかったんだよ。ただしたくないなんて言ったら、爺やがブち切れちゃって…」


 そうこうしていると、先程まであんな厳格な顔をしていた人とは思えないほど、明るくなった王が謝ってきた。


 彼の風貌は、尊大な王から大きく変化し、爽やかさとかっこよさを持ち合わせた好青年と化している。


「当たり前です。父上がいらっしゃれば、同じようにおっしゃったはずです。」

「あぁ、ほんとやかましいなぁ…大体父さんも、こういう堅苦しいの嫌がってたじゃん!」

「坊ちゃまは、これからも国を治めていく王としての心構えが足りないのです。ですから今朝だって…」

「またはじまったよ…爺やの説教が。メル!なんとか言ってくれよぉ…」

「爺やさんの言う通りですよ、そんなんじゃだめです」


 いや…さっきまで俺達を処刑する云々言ってた王は、今では爺やと読んでいる老紳士やメルティーさんに叱られる末っ子にまで成り下がっていたように見えたが、


「えっ…メルティーさん…王様とどんなご関係なんですか?」


美月は、王の変貌ぶり以上にメルティーさんとエルディア王の関係性のほうが気になっているようだった。


「あはは…実は私とエルディアは幼馴染なんです。私の母が、国お抱えの審問官でして、古くからの付き合いになります。」

「エルディアって!なんでそんな冷たい呼び方なんだよ!いつもみたいにディアって呼んでくれよ!」


 ………この人、なんかなぁ


 俺は、メルティーさんとエルディア王のやり取りを聞いて、むず痒さを感じていた。

 

「もう!お客さんの前でしょ!もう少し恥じらいを持って!」

「ごめんって…メル。」

「そのメルって呼ぶのも、お客様の前ではやめて!」


 エルディア王の明らかなメルティーさんに対する好意…色恋沙汰に弱い俺でさえ分かる、2人の…いや主にエルディア王の態度に、他人事なはずなのに顔が赤くなりそうだった。


 しかも、当のメルティーさんはエルディア王の好意に気づいていなそうなのも、泣けてきそうになる。


「嫌だ!そっちが呼ばないのは、知らないけど、俺はメルって呼び続けてやるから!」

「あぁ…もう…」


 こうして『あれ』の正体がばれた国王は、おやつを勝手に食べてしまって、怒られる子犬のように困り眉でメルティーさんに泣きついていた。これが噂の犬系彼氏的なやつか…そんなしょうもないことを考えていると、


「あっ…そうそう、言い忘れてた!君たちをここに呼んだのは、さっきの宣誓だけじゃなくてね、君たちが与えられたはずの特異スキル、それの確認をするためでもあるんだ!」


 泣き顔から笑顔に、顔を移し替えた王から、特異スキルという男の子なら、興味津々のワードが飛び出した。




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