発見されたメモ書き

 大梨はスマホの電池が切れることを考え、細かなことはメモに残していた。

 その経過を振り返ってみたいと思う。


 ◆


 遭難一日目

 乗っていた船が大きな衝撃と共に沈むのはあっという間だった。救難ボートや救命道具も出せないまま乗客は海に投げ出された。

 たまたま僕は運が良かったのか、流れてきた浮き輪に掴まりこの島まで流されてきた。

 体力がある内にと島を散策してみたが、人がいる気配は無い。どうやら無人島のようだ。

 乗っていた船が沈没してからこの島に来るまで、そんなに時間がかかっていなかった。だからきっと救助も直ぐ来ることだろう。それまで疲れを癒すためにもそのまま眠ることにした。


 遭難二日目

 日差しの暑さで目が覚めた。酷く喉が渇き、お腹がすいた。昨日から何も食べていない。

 海水は辛くて飲めたもんじゃない。海の中には水族館でみる魚がいた。刺身や焼き魚が泳いでいたら食べられたのに、見るだけの魚じゃ意味がない。

 お腹が空くとイライラする。

 昨日、探索した森には水が流れていたが、肝心の蛇口が見つからなかった。あんなにも水が溢れているのだから、何処かに開きっぱなしの蛇口があると思うのだが。

 それにこの近くには蜜柑やバナナといった果物の匂いだけするものがあった。これが食べられるやつだったら良かったのに。

 動き回ることも疲れた。体力を残すためにも今日も寝る。


 遭難三日目

 砂浜に船から流れ着いたと思われる緊急バックを見つけた。食べ物や飲み物があると思った。

 中にはカンパンと書かれたビスケットのような写真が貼られたものがあった。

 缶のようなパンだと思い噛ってみたが、ただの缶でパンの味などはしなかった。外に入っていたものも全部食べられるものではなかった。

 この島には食べられそうなものが沢山あるのに、何一つ本物がない。


 疲れた。


 遭難四日目

 ここには何もない。

 目が霞む。

 身体も動かない。


 ここには何もない。



 ◆


 大梨のメモは四日目で途切れていた。

 その内容は調査報告書の仮説に近いものがあった。

 知らない事や見たこと無いものは認識のしようがなかった。


 こうして大梨の餓死の真相は秋次の仮説報告と大梨のメモによって裏付けされた。


 その後、今回の事故調査を経て、緊急避難バックの内容物には細かい説明書きがされ、学校教育では基礎的な物の成り立ち等を再教育するように伝達される事になった。

 大梨の死は避けられるものであった。全ては知らなかった、使ったことがなかった事による経験不足から起きた事故であった。



 了





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見慣れた世界から遭難 ろくろわ @sakiyomiroku

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