調査報告書

 調査報告書

 太平洋沖合いの無人島で餓死した大梨和成の調査結果について。


 果物や缶詰について

 大梨和成は無人島内に自生していた蜜柑やバナナが普段の生活で目にする形と違っていた為、食べられると思わなかったと考えられる。これは同行した大梨和成と同年代の印南調査員も同様の事を述べていた。

 蜜柑本体を蜜柑とは思っておらず、普段目にする加工された蜜柑の実を蜜柑本体と思っていた。

 またカンパン等も馴染みがなく、缶を開けて食べる事に意識が向かなかったと考えられる。カンパンの入った缶詰に描かれているパッケージで缶自体をパンだと思っていた可能性もある。事実、缶には噛まれた跡が残されていた。


 マッチやろ過装置について

 これ等も同様に使い方が分からなかったものと思われる。マッチに至っては現代の十代から二十代の世代には触れたことの無い人も多い事が判明した。大梨和成の年代ではガスコンロ等もさわる機会が少なく、IHクッキングヒーター等が主流である事から火を起こした事がなかった可能性もある。


 飲み水について

 近くには川があり水源として機能していた。またろ過装置を使えばより安全に水分を摂取できた。しかし、前述の通りろ過装置の使い方が分からなかった事に加え、水は蛇口から出てくると思っていた可能性が考えられる。こちらも印南調査員が同様の発言をしており、飲み水は蛇口から出てくるものと川の水に手をつけなかったと考えられる。


 結論

 大梨和成が食べ物や水分を一切取らなかったのは、島にある果物や緊急避難バックの中にあった食料を認識出来なかった事によるものと考えられる。

 また認識出来なかった事は主に生活の場で触れる機会が無く、または加工された後の姿しか知らなかったことによるものと考えられる。



 秋次は簡単にまとめた報告書を見直し、どの様に清書しようかと考えていた。

 果たして本当に認識できない事があるのだろうか?にわかには信じられない話だろう。今回の報告書の根拠は何も無く、あくまでも推測に過ぎない。

 唯一、この仮説を支えるのは大梨の残した「この島はばかりだ」のメッセージだけだ。

 食べられる匂いのする食べられないと思い込んでいた果物。

 缶のパンと書かれた食べられない缶パン。

 水はあるのに蛇口がない。

 そう考えると、偽物ばかりのまやかしに見えて来たのだろう。


 秋次の調査報告書は上層部から再調査の命令が出され、報告書として却下された。しかし後日、大梨の手書きのメモか見つかった事により、その調査内容と差異が少なかったことから調査報告書として採用される事になった。


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