第18話


         第四章


 立ち上った煙を避けるために、環奈は素早くフライパンに蓋をした。

 

 フライパンの中には、シャケがひと切れ。いっしょに焼いているマイタケは、もうすっかり火が通り焦げ目がついている。

 

 今日の昼食は、鮭のバター焼き。お義母さんの分だけだ。環奈は食欲が湧かない。

 

 頭の中を、白鷺さんの庭に組み込まれた二等辺三角形の地面と、おびただしい数の小人たちの倒れた姿が占めている。

 

 なんとかしなきゃ。

 

 このまま白鷺さんとその小人たちの暴挙を見過ごすつもりはない。


 まずは、生き残った小人たちを集めて、お義母さんの錠剤を与える。そして元気を取り戻した小人たちとともに戦う。

 

 でも、どうやって?

 新しい武器など、何も思いつかなかった。いつかのように水を撒き散らしたところで、一時的な効果しかないだろう。


 とりあえずは、白鷺さんの目を盗んで、あの二等辺三角形の土地と白鷺さんの庭の間に、フェンスを取り付けよう。目の細かいフェンスがいい。なんなら、板で囲ってしまってもいいかも。

 ともかく、実力行使だ。向こうがああいう出方をしたのだ。それなりの対応をさせてもらう。


「いけない!」

 考え事をしていたせいで、鮭が焦げてしまった。

 急いでお皿に移す。焦げた皮をナイフでこそげとり、焦げた面を下にする。ぱっと見では、失敗したようには見えない。

 先に作っておいたワカメとネギの味噌汁を沸かし直す。

 

 大音量で、テレビのワイドショーの音声が響いてきた。

 

 時計を見ると、もう一時近い。

 食事を催促するとき、お義母さんはああしてテレビの音量を上げる。

「今、行きますから!」

 トレーに用意した食事を載せ、環奈はお義母さんの部屋へ向かった。


 部屋に入ると、お義母さんはベッドに正座座りして、テレビを見ていた。

「あら、焦げてる」

 お義母さんの声を、環奈は無視した。お義母さんも無視されるのはわかっているのか、それ以上コメントはしない。

 

 ちゅっちゅっ。


 お義母さんが食べ物を咀嚼する音を聞きながら、環奈はふたたび庭に思いをはせた。

 

 次の戦いで、相手に大きな打撃を与えるべきだ。もう、二度とふたたび、うちの庭に侵攻させないように、相手の体力を奪うべきだ。そうするには、どんな戦い方をしたらいいのだろう。

 いままでの人生で、環奈は戦争の仕方を習った憶えはない。普通、誰だってないはずだ。こんなところで、戰爭が始まるとは誰も想像しないのだから。

 

 ポケットからスマートフォンを取り出して、環奈は「戦闘」や「攻撃」、「武器」などと検索してみた。おびただしい数の検索結果が示された。普段、関係なく暮らしているけれど、恐ろしいワードは、案外身近なのかもしれない。

 

 まるで歴史の授業のように、近代から現代までの、古今東西、有名な戰爭の原因や結果も出ている。

 環奈の知らない戰爭がいくつもあった。要するに、いつも、どんな時代も、戰爭は行われているのだ。


 何も知らなかった自分が、おめでたかったのかも。そして、自分のようなおめでたい者は、勃発した戦闘に驚いてしまうのだろう。


 写真入りで様々な武器も出ていた。本物の戦車や戦闘機。地雷や化学兵器も様々な種類がある。


 怖くなった。このままにしておけない、負けられない。その思いの先に、この武器たちがある。

「きゃっ」

 スマートフォンを落としてしまった。地雷でやられた肌の黒い子どもの無残な姿の写真を見てしまったからだ。


 やっぱり、小人たちの戰爭に関わるのはやめたほうがいいんじゃないか。

 でも、このままでは、うちの小人たちがやられてしまう。


 新しい武器を提供しなくては。


 それは、どんな?

 わからない。

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