第43話 証拠
学園休暇2日目夕方過ぎ。
アシュリーは父に呼ばれ、執務室の来客用ソファーで報告書に目を通していた。父も彼女の目の前で報告書を確認している。
エディーは既に報告書を読み終えたらしく、アシュリーの隣でトールボット公爵家の地図を用意していた。そう時間を置かずに、アシュリーと公爵も報告書を読み終え、彼はエディーに確認した。
「ふむ、これで証拠は揃ったな」
「はい。現在王宮の医師に鑑定をお願いしておりますが、十中八九禁止薬物だと思われます」
エディーが言うには、鑑定まで一週間ほどかかるという。だがほぼ王手に近い状況へとアレクサンドルを追い込めたと見て良いだろう。
「あとは鑑定待ちという事だな。男爵家の方はどうなった?」
「今朝、彼女が例の症状を発症したと報告が入りました。やはりアレクサンドルが彼女の元へと見舞いに訪れていますが、ザカリー殿に追い返されたようです」
兄であるザカリーは、アレクサンドルに正論を翳して追い返しているらしい。
彼は貴族として当たり前の事をしているだけなのだが、それを男爵夫妻が咎めていると言うのだから、彼らの代でワインの質が下がった事にも納得する。
「昨晩のミルクもヴェリタスによって少量ではありますが、手に入れる事ができました。薬物が混入したものと取り替えるのはリスクがあるので、ルイサ嬢には悪いのですが……」
エディーは言葉を濁す。鑑定結果が判明したのなら、強引な手を取っても力技で進められたかもしれないが、現在確たる証拠が揃っていない。知っていながら薬物入りのミルクを飲ませる事にアシュリーも罪悪感を感じるが、解決に導くために必要な措置だと言い聞かせる。
もう彼女に飲ませないために、早く解決すれば良いのだから。
そんな二人の罪悪感を払うかのように、公爵が話し始めた。
「彼女には二人を捕えた後にはなるが、陛下の許可を得て王宮医師に検査を依頼している。彼女の状況も先に伝えたが、彼が言うには『解毒剤を使用している可能性が高く、後遺症は起きにくいだろう』と踏んでいるらしい」
王宮医師が言うには、禁止薬物は遅効性の毒らしく、接種から数時間後に症状が現れ始めると言う。解毒剤を使用しない場合摂取量にも違いはあるが、摂取してから最低でも一日は症状が現れる。
だが解毒剤を使用した場合は、半日ほどで治るらしい。おそらく彼女が熱を出した時に飲む水差にでも入れているのだろう、と予想できるので、ヴェリタスはその水差の水も手に入れてきたそうな。
「証拠が揃えば、陛下に奏上ができる。それまでこのまま何事も無ければ良いのだが」
そう言って公爵はひとつため息をつく。アシュリーもこのまま平穏に終わって欲しいと心の中で願っていた。
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